DJ: Duvvada Jagannadham (Telugu)

3.0
DJ: Duvvada Jagannadham
「DJ: Duvvada Jagannadham」

 2017年6月23日公開の「DJ: Duvvada Jagannadham」は、普段はケータリング業者をしながら影では悪人を成敗する変わったブラーフマン(バラモン)が主人公のアクション映画である。

 監督は「Gabbar Singh」(2012年)などのハリーシュ・シャンカル。音楽はデーヴィー・シュリー・プラサード。主演は「スタイリッシュ・スター」アッル・アルジュン。ヒロインはプージャー・ヘーグデー。他に、ラーオ・ラメーシュ、ムラリー・シャルマー、スッバラージュ、ポーサーニ・クリシュナ・ムラリー、チャンドラ・モーハン、タニケッラ・バラーニ、ヴェンネラ・キショール、シャトルなどが出演している。

 題名の「DJ: Duvvada Jagannadham」とは、主人公の名前およびそれを略称にしたニックネームである。

 テルグ語オリジナル版に加えて、ヒンディー語、タミル語、マラヤーラム語、カンナダ語、ベンガル語の吹替版も公開された。鑑賞したのはテルグ語版であり、英語字幕を頼りに内容を理解した。2024年7月12日から「仕置人DJ」の邦題と共に日本でも劇場一般公開された。

 ヴィジャヤワーダ在住のブラーフマン、ドッヴァーダ・ジャガンナーダム・シャーストリー(アッル・アルジュン)は、普段はケータリング業者として働いていたが、子供の頃から不正が許せない性格で、プルショッタム警部補(ムラリー・シャルマー)に見出され、彼から指令を受けて悪人を打ちのめす裏の顔を持っていた。いつしか悪人たちからは「DJ」と呼ばれ恐れられるようになっていた。

 ジャガンナーダムは友人ヴィグネーシュ(ヴェンネラ・キショール)の結婚式でケータリングを担当したが、そこでプージャー(プージャー・ヘーグデー)という高飛車な女性と出会う。プージャーはジャガンナーダムの心をもてあそんでいたが、ジャガンナーダムは彼女に真剣にほれてしまった。プージャーの父親はプシュパム内務大臣(ポーサーニ・クリシュナ・ムラーリー)の娘で、悪徳実業家ロイヤラ・ナーイドゥ(ラーオ・ラメーシュ)の息子アヴィナーシュ(スッバラージュ)とアブダビでお見合いしたが、潔癖症すぎて幻滅し、逆にジャガンナーダムのことを思い出す。

 その頃、ジャガンナーダムの叔父チャンドラム(チャンドラ・モーハン)が自殺してしまう。彼は全財産をアグロ・ダイヤモンド社のスキームに投資していたが、詐欺であることが分かり、絶望して命を絶ってしまったのだった。アグロ・ダイヤモンド社はナーイドゥが裏で操っていたが、表向きはステファン・プラカーシュ(シャトル)が社長を務めていた。アグロ・ダイヤモンド社の不祥事は社会問題となり、ステファン社長は裁判所から90億ルピーの賠償金支払いを命じられた。ジャガンナーダムは叔父の仇討ちに乗り出す。

 娘がしがないケータリング業者と結婚したがっていると聞いて慌てたプシュパムはジャガンナーダムを暗殺しようとする。ステファン社長がジャガンナーダムを殺そうとするが失敗し、逆に彼に拉致されてしまう。ジャガンナーダムはステファン社長から黒幕の名前を聞き出そうとするが手間取り、ナーイドゥはステファン社長を探し出そうとする。最終的にジャガンナーダムは黒幕がナーイドゥであることを知り、ナーイドゥはDJがジャガンナーダムであることに気付く。

 ジャガンナーダムはプージャーの協力を得てアブダビでアヴィナーシュと会い、彼がインドに違法送金しようとしていた90億ルピーをかすめ取ることに成功する。また、彼はナーイドゥに捕まったプルショッタムを救い出すと共に、アヴィナーシュの間抜けさを巧みに利用し、父親と敵対させ、彼を殺させる。アヴィナーシュはジャガンナーダムから渡された90億ルピーを使って被害者救済のための基金を立ち上げるが、その後警察に逮捕されてしまう。

 今回、アッル・アルジュンが演じるジャガンナーダムは、表向きは暴力や殺生とは無縁のブラーフマンという設定である。彼は首にルドラークシャ(インドボダイジュの実)を付けており、それを身に付けている間は絶対に暴力をしないと父親に誓っていた。だが、逆にいえばそれを外してしまえば暴力はし放題だった。幼少時から世直しに関わっていたジャガンナーダムは、正義感の強い警察官プルショッタムに見出され、彼の指令を受けて密かに悪人を懲らしめる役割を担い始める。彼のその裏の顔は「DJ」と呼ばれた。

 既に序盤で「DJ」としてのジャガンナーダムはいくつもの巨悪をつぶしてきたが、「DJ: Duvvada Jagannadham」の悪役は悪徳実業家ナーイドゥである。ただ、彼は基本的に部下を動かして悪事を行ってきたため、表には出ていなかった。集合住宅を巡る詐欺事件が起こり、ジャガンナーダムの叔父が自殺したこともあって、この詐欺事件の首謀者はジャガンナーダムのヒットリストに載る。だが、ジャガンナーダムはなかなかその正体を知ることができなかった。

 一方、全く別の理由でジャガンナーダムはナーイドゥから命を狙われていた。ナーイドゥは息子のアヴィナーシュをプシュパム内務大臣の娘プージャーと結婚させようとしていたが、プージャーはアヴィナーシュではなくジャガンナーダムと結婚したいと言い出してしまった。この政略結婚を実現させるためにジャガンナーダムは邪魔者として浮上した。ナーイドゥはジャガンナーダムがDJだとは気付かずに彼の暗殺計画を練り始めるのである。

 アッル・アルジュンは、ケータリング業者としてのジャガンナーダムの顔と、仕置人DJとしての顔を演技によって完全に使い分けており、そのギャップがこの映画の最大の味になっている。ジャガンナーダムのときの彼はいかにも無教養な田舎者である。ブラーフマンとしてマントラを唱えるときにはキリッとするが、それ以外のときの彼はどちらかといえば情けない雰囲気で、プージャーも彼を下に見る。だが、DJとしての彼は、インド映画にありがちな無敵のヒーローであり、しかも「スタイリッシュ・スター」の名に恥じないスタイリッシュさである。

 さらに、アッル・アルジュンの超絶ダンススキルが炸裂し、歌と踊りが非常に素晴らしい。ストーリーとの親和性という観点では疑問符が付くが、どれも単品で見応えのあるダンスばかりだ。特に終盤の佳境前にわざわざ差し挟まれる「Seeti Maar」で彼が見せるステップは神がかっている。この「Seeti Maar」は後にサルマーン・カーン主演のヒンディー語映画「Radhe」(2021年)でリメイクされた。

 ただ、多くの要素を詰め込み過ぎであり、展開が早すぎる場面がいくつもあった。ストーリーも決して明瞭ではない。たとえばプージャーが急に心変わりしてジャガンナーダムを結婚相手に選ぶ流れは観客を完全に置き去りにしていた。ロマンス映画としては全く成立していない作品だ。

 基本的にはテルグ語映画だが、ヒンディー語のセリフが比較的多い映画であった。何かとヒンディー語を敵視するタミル語映画とは違い、ヒンディー語に対する悪意はほとんど感じなかった。前述のダンスナンバー「Seeti Maar」についても、題名やサビはヒンディー語である。そういえばヒンディー語映画「Agneepath」(2012年)のアイテムナンバー「Chikni Chameli」が使われている部分もあった。

 舞台はハイダラーバードとヴィジャヤワーダを往き来する。2014年に旧アーンドラ・プラデーシュ州内陸部がテランガーナ州として独立した。ハイダラーバードはテランガーナ州の州都であり、ヴィジャヤワーダは新アーンドラ・プラデーシュ州の中心都市だ。両方の地域をあえて舞台にすることで、両州の親睦を演出しているように感じた。

 「DJ: Duvvada Jagannadham」は、アッル・アルジュンが2つの顔を使い分けながら不正に立ち向かっていくアクション映画である。ダンスは絶品だが、いろいろなものを詰め込み過ぎて消化不良に陥っている。惜しい作品である。