Uski Roti

2.5
Uski Roti
「Uski Roti」

 「Uski Roti(夫の食事)」は、パラレルシネマの旗手の一人マニ・カウル監督がインド映画TV学校(FTII)卒業後に初めて撮った長編映画であり、また彼の代表作でもある。公開年は1969年とも1970年ともされているが、中央映画検定局(CBFC)の認証状によると日付が1970年11月3日になっているため、少なくともインドで公開されたのは1970年以降であろうと予想される。ヒンディー語文学者モーハン・ラーケーシュの同名短編小説(1957年)を原作としている。また、モーハン・ラーケーシュはこの映画のセリフも書いている。

 キャストは、グルディープ・スィン、ガリマー、リチャー・ヴャース、サヴィター・バジャージなどである。全員プロの俳優ではなく、素人である。

 2025年4月14日に鑑賞し、このレビューを書いている。

 物語は、バスの運転手をするスッチャー・スィン(グルディープ・スィン)にローティー(パン)を届けようとする主人公バーロー(ガリマー)を中心に語られる。メインロード沿いのバス停でバーローはひたすら夫が運転するバスを待ち続ける。それだけの映画である。

 映画の中では説明されていないが、原作を読むと、スッチャーはパンジャーブ州のジャラーンダルとナコーダルの間を往き来するバスの運転手であり、バーローが待つバス停はその間に位置していることが分かる。数時間に1回は必ず夫の運転するバスが停車する。妻であるバーローの仕事は、昼食時と夕食時に彼にローティーを届けることであった。

 ただ、この日、バーローは昼食時に夫にローティーを届けることができなかった。きっと夫が怒っているだろうと思い、ずっと待ち続けていたのである。バーローはバス停から動かないが、合間に過去の回想や妄想が差し挟まれ、場面が飛ぶ。そこで、なぜ彼女が昼食時に間に合わなかったのかが語られ、留守番を任せてきた妹に対する心配が映像化される。これは原作を読んだから分かるのであり、もし原作を読まずにこの映画を観ていたら、唐突に回想シーンや妄想シーンに移行するため、訳が分からなくなるだろう。それを芸術的と取るか、未熟と取るかは鑑賞者の鑑識眼に依るが、個人的には後者だと感じた。決して上手なストーリーテーリングではない。

 また、モーハン・ラーケーシュがセリフを書いたといっても映画の中でセリフのやり取りは最小限に抑えられており、大部分の時間帯を沈黙と無表情な顔のアップが支配している。素人の起用などと合わせて、これらはフランスの映画監督ロベール・ブレッソンの影響だとされている。メインストリームの商業主義娯楽映画と真逆の手法で作られた映画であり、インド映画の伝統に対する挑戦でもあった。

 夜中まで夫を待ち続けたバーローは、最終的に夫にローティーを渡すことができた。そして夫から優しい言葉も掛けてもらっていた。それをもってめでたしめでたしとすることもできないことはないが、それは真意ではないだろう。妻がバス運転手をして働く夫にローティーを届けるという奉仕をさせられているという従属的な地位がほとんど無感情に描き出されることで、インドの女性たちが置かれた弱い立場を浮き彫りにしている。スッチャー・スィンがナコーダルに愛人を囲っていること、バーローの妹が村に住むジャンギーという悪党にセクハラを受けたことなども差し挟まれ、男性が好き勝手する社会、そして女性が安心して暮らせない社会であることも指摘されている。

 「Uski Roti」は、パラレルシネマの旗手マニ・カウル監督の代表作である。傑作との呼び声も高いが、現代の視点から改めて冷静に見返すと、ストーリーテーリングに難があると感じる。原作と併せて観ないと内容理解が困難なのも難点だ。だが、娯楽映画が支配的だった当時のインドにおいて革命的な映画だったことも確かであり、インド映画史におけるその重要性は決して揺らぐものではない。