And What is the Summer Saying?

2.5
And What is the Summer Saying?
「And What is the Summer Saying?」

 「And What is the Summer Saying?」は、2024年にカンヌ映画祭でグランプリを受賞したパーヤル・カパーリヤー監督が、「Watermelon, Fish and Half Ghost」(2014年)、「Afternoon Clouds」(2015年)、「The Last Mango Before the Monsoon」(2015年)の次に撮った作品である。2018年2月19日にベルリン国際映画祭でプレミア上映され、2019年10月12日には山形国際ドキュメンタリー映画祭で「夏が語ること」という邦題と共に上映された。

 「Watermelon, Fish and Half Ghost」にはまだストーリー性があったが、その後の彼女の作品からは次第にストーリー性が解体されていき、それに伴って映像と音声をコラージュした映像詩のような形態を取りつつある。「And What is the Summer Saying?」では、映像と音声はほとんど関連性を持たない。マハーラーシュトラ州の片田舎の風景が切り取られた映像が流される中、素朴なマラーティー語のセリフが重ねられる。

 映像と音声は、通常のドキュメンタリー映画と同じ手法で採取されたと思われる。だが、それらを別々に使用し重ねることで、ドキュメンタリー映画は映像詩に変貌する。現実を映し出しながら、そこに幻想を創り出そうとしている。カパーリヤー監督が突き詰めているのは、この新たな表現スタイルだと感じる。

 そして、彼女の作品に共通するのは、孤独である。しかも、必ずといっていいほど、伴侶に先だたれた老人が出て来る。「And What is the Summer Saying?」でも、愛情を注いでくれた最愛の夫を亡くした女性のインタビュー音声が流される。それはまるで、交尾を終えて生を終える蜜蜂のオスのようである。

 題名の「そして夏は何を言っている?」は、この映画が撮影されたマハーラーシュトラ州西部ビーマシャンカルの辺りで話されている方言の一種のようで、「暑いですね?」といった意味になるようだ。カパーリヤー監督は、村で採取した様々な映像や音声を恣意的に組み合わせ、詩的な作品を創出した。ただ、そこに何らかの一貫したストーリー性を求めることはできず、その解釈には観客の能動的な努力を要する。

 「And What is the Summer Saying?」は、もはやドキュメンタリー映画の枠組みを超え、ポエムの域に達している作品である。個人的にはすんなりと咀嚼できる作品ではなく、好意的な評価をしにくいのだが、高度な芸術作品としての価値を見出す人はいるだろう。カパーリヤー映画にありがちであるが、極度に観る人を選ぶ作品である。


And What Is The Summer Saying by Payal Kapadia