2021年8月27日からMX Playerで配信開始された「Crime Factory」は、ハイダラーバードのスラム街「クライムファクトリー(犯罪工場)」で育った子供たちが、マフィアや悪徳警官とゲームを繰り広げながら強大化していく様子を追ったクライムサスペンス映画である。
監督はKKビノージー。テルグ語映画界で活躍してきた脚本家および台詞作家である。この「Crime Factory」はヒンディー語映画ではあったが、台詞と口の動きが合っておらず、どうも当初はテルグ語映画として撮られた作品なのではないかと感じる。映画の冒頭では、「ハイダラーバードを舞台にしており、本来ならば台詞はダッキニー語(ヒンディー語の一方言)かテルグ語のはずだが、より広範な観客に鑑賞してもらうためヒンディー語にしてある」というような注意書きがあった。
キャストを見てみても、ヒンディー語映画界で名の知れた俳優は一人も見当たらない。唯一、ナレーションを務めるヴィジャイ・ラーズだけは有名だ。他は、アーカーシュ・バースネート、ラーナー・ヴィクラム・スィン、ナクル・トーマル、ジートサマル・スィンハラーイ、ミーナークシー・パーンデーイ、マーヤー・ゲヘロート、スシール・パーンデーイ、アーシーシュ・ワラング、マノージ・グプター、ニメーシュ・ソーニーなどである。
かつてテルグ語映画界とヒンディー語映画界を股に掛けて絶大な勢力を誇ったラーム・ゴーパール・ヴァルマーの名前がこの映画の支援者として掲げられていた。
サッルー(アーカーシュ・バースネート)、アッジャル(ラーナー・ヴィクラム・スィン)、パップー(ナクル・トーマル)、ビクルー(ジートサマル・スィンハラーイ)、ブルブルの5人は、ハイダラーバードのスラム街「クライムファクトリー」で育った孤児たちだった。彼らはパンジャー姓を名乗っていたが、血のつながりはなかった。大麻密売人ナルスィン・ヤーダヴの下で大麻の密売をして日銭を稼いでいたが、裏切ったために襲われ、ブルブルが殺されてしまう。怒ったビクルーはナルスィンを殺し返すが、警察に逮捕されてしまう。
それから14年後。サッルー、アッジャル、パップーはクライムファクトリーの支配者になっていた。パップーはヘータル(マーヤー・ゲヘロート)と結婚し、サッルーは売春宿からトゥルジャー(ミーナークシー・パーンデーイ)を買い上げて一緒に暮らし始める。ビクルーが釈放されたが、ナルスィンの弟ラッドゥーは仇討ちを狙っていた。
サッルーたちはジャハーンギール・カーン(スシール・パーンデーイ)の下で裏金の運び屋をしていた。サッルーがムンバイーで裏金を受け取り、それを東に運んだ後に途中でビクルーにバトンタッチして、最後は悪徳警官ガンパト・ラーオ(アーシーシュ・ワラング)に渡していた。
ところが、孤独を募らせたアッジャルがサッルーの嫉妬心を煽り、トゥルジャーと一緒にいたビクルーを殺させてしまう。ビクルーの命を狙っていたラッドゥーは、代わりにトゥルジャーを誘拐する。だが、サッルーとビクルーがジャハーンギールの5千万ルピーを運んでいたことを知ると目の色を変える。
サッルーは5千万ルピーを確かにビクルーに届けたはずだった。彼はビクルーとトゥルジャーが金を持って逃げようとしたのではないかと疑う。アッジャルはガンパトを尾行し、彼がラッドゥーたちを殺すところを目撃し、録画する。このときトゥルジャーは脱出に成功し、アッジャルと共にサッルーの元に戻る。だが、サッルーはトゥルジャーが裏切ったと思っており、彼女を簡単には受け入れなかった。見かねたアッジャルが、サッルーに嘘を付いて嫉妬させるように仕向けたのは自分だと明かす。サッルーは、ビクルーが金を盗んだことにして追及を逃れようとするが、後にビクルーが生きていることが分かる。ジャハーンギールとガンパトはサッルーを捕まえ、拷問を加えて金の在処を吐かせようとする。
アッジャル、パップー、ビクルーは、ガンパトの仲間ニメーシュ・セート(ニメーシュ・ソーニー)が怪しいと感じ、彼を尾行する。すると、5千万ルピーは彼らが隠し持っていることが分かる。三人はニメーシュを捕らえるが、金庫は彼とガンパトの鍵がなければ開かなかった。彼らはガンパトをおびき出し、彼を捕らえる。金庫を開けてみると空だった。怒ったニメーシュはガンパトを殺す。金はガンパトが売春宿の主アッカーに渡していた。彼はトゥルジャーを買い上げようとしたのだった。だが、トゥルジャーはアッカーを殺し、その金を持って逃げる。一方、捕らえられていたサッルーはジャハーンギールの喉を噛み切って彼を殺す。
こうしてライバルが誰もいなくなり、サッルー、アッジャル、パップー、ビクルーの四人は晴れてクライムファクトリーの支配者となった。
「パンジャー」と呼ばれたクライムファクトリー育ちの5人の子供たちは、1人殺されて4人になってしまうものの、成長の過程で自分たちを支配し搾取してきた者たちを次々に殺していき、最終的はクライムファクトリーの支配者に登り詰める。
アンダーワールドの下剋上ストーリーはこの手の映画では珍しくない。ヒンディー語映画が好んで題材にするマフィアのドン、ダーウード・イブラーヒームの人生そのものが下剋上だった。マフィア映画には必ず権力闘争があるが、それは敵対する勢力同士の争いに留まらず、内部抗争も含まれることになる。アンダーワールドでは力のある者が上に立つ。「Crime Factory」で描かれたのも大半が内部抗争だった。
「Crime Factory」が他のマフィア映画と異なるのは、クライムファクトリーで助け合って育ったことで血縁以上の結束を持つ5人の子供たちを主人公にしたことだ。1人殺され、1人逮捕されて、残されたのはサッルー、アッジャル、パップーの3人になってしまうが、関係は強固であり、彼らはクライムファクトリーに自分の家が持てるほど地盤を築き上げた。しかしながら、14年間服役していたビクルーが釈放され4人になった辺りから、人間関係が複雑になり、綻びも見え始める。
パップーがヘータルと結婚して、仲間と過ごす時間が少なくなっていたことに加えて、サッルーがトゥルジャーと恋に落ちてしまい、やはり彼女のことばかりを考えるようになる。残されたアッジャルは孤独感を感じるようになっていた。ビクルーが戻ってきたことで事が好転するのを期待するが、アッジャルの孤独は変わらなかった。元々短気な性格だったことも災いし、彼が酔っ払って発したいい加減な言葉がパンジャーたちの人生を大きく変えてしまう。
この辺りの人間関係のもつれさせ方は見事であった。ビクルーが生きていたという急転回はご都合主義にも感じたが、ストーリーを面白くさせた。現金5千万ルピーの行方が一時全く分からなくなるのもサスペンス性の醸成に成功していた。その一方で、悪役が次々と意外にあっけなく死んでいくことには不満を感じた。悪役の中ではマフィア組よりもむしろ警官ガンパトの方が怖い存在だった。
ヴィジャイ・ラーズが務めたナレーションは、ただのナレーションではなかった。クライムファクトリー自身という設定であり、犯罪の温床となっているスラム街が自らの中で起こる出来事を淡々と語る。その語り口がやたら哲学的で、暴力的になりがちなストーリーに思いがけない深みを与えていた。
しかしながら、いくら台詞がヒンディー語になっていたとしても、テルグ語映画が元来持っている暴力性が滲み出ていたことは否めない。必要以上に残酷なシーンが多かった。
「Crime Factory」は、テルグ語映画的な荒削りの部分が散見されるものの、通り一遍のマフィア下剋上映画とは一線を画したクライムサスペンス映画だ。有名なスターはおらず、派手さもないが、人間関係のもつれや心情の動きがよく描かれており、かろうじて一見に値する映画になっている。