Four More Shots Please!

3.5
Four More Shots Please!
「Four More Shots Please!」

 Filmsaagarはインド映画の専門サイトであり、基本的に映画を取り上げている。だが、映画のOTT配信が普及し、そこにウェブドラマも混在するようになったことで、映画とウェブドラマの境界線が曖昧になりつつある。それに伴い、映画のトレンドを語る上でウェブドラマにも言及する必要性が生じてきている。今回はAmazon Prime Videoが配信する「Four More Shots Please!」を取り上げたい。

 このウェブドラマは、一言で表現してしまえば、「インド版セックス・アンド・ザ・シティ」である。「セックス・アンド・ザ・シティ」については改めて説明するまでもないと思うが、1998年から2004年にかけて米国のケーブルテレビ局HBOで放送された連続テレビドラマで、ニューヨークに住む4人の独身女性たちの恋愛、仕事、そして生き様をコミカルに描いたことで大ヒットした。

 「Four More Shots Please!」もムンバイー在住の4人の女性たちを主人公にしており、「セックス・アンド・ザ・シティ」に影響を受けて作られたことは否定のしようがない。むしろ開き直って、「セックス・アンド・ザ・シティ」の焼き直しをあからさまにやっているといえる。だが、ムンバイーを舞台にし、登場人物をインド人にしたことで、かなり印象が変わってくる。

 「Four More Shots Please!」のプロデューサーは、「Pyaar Ke Side/Effects」(2006年)などを制作したプリーティシュ・ナンディー、クリエイターは、その娘ランギーター・プリーティシュ・ナンディーである。シーズン3まで作られており、シーズン1は2019年1月25日、シーズン2は2020年4月17日、シーズン3は2022年10月21日から配信開始された。各シーズンは10エピソードで構成されており、各エピソードは30分ほどだ。

 シーズンごとに監督が異なる。シーズン1は「London Paris New York」(2012年)のアヌ・メーナン、シーズン2は「Mujhse Fraaandship Karoge」(2011年)のヌプール・アスターナー、シーズン3は新人のジョイター・パトパティヤー。全員女性である。

 「Four More Shots Please!」は日本のAmazon Prime Videoでも視聴可能であり、日本語吹替、日本語字幕でも鑑賞できる。邦題はそのまま「フォー・モア・ショット・プリーズ!」になっている。

 4人の主人公を演じるのは、「Margarita with a Straw」(2015年/邦題:マルガリータで乾杯を!)のサヤーニー・グプター、「Mission Mangal」(2019年/邦題:ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画)のキールティ・クルハリ、「Ishqeria」(2018年)のバーニーJ、そして「Ujda Chaman」(2019年)のマーンヴィー・ガグルーである。

 脇役には、リサ・レー、ミリンド・ソーマン、ニール・ブーパーラム、プラティーク・バッバル、アンクル・ラーティー、パーラス・トーマル、シモン・スィン、アムリター・プリー、サプナー・パッビー、ラージーヴ・スィッダールタ、ニミシャー・メヘラー、ジム・サルブなどが出演している。

 キャストを見ると、A級スターはおらず、どちらかというと伸び悩んでいる俳優たちが多い。インドではドラマ俳優よりも映画俳優の方が圧倒的に地位が高く、どうしてもそのような配役になってしまう。ただ、かつて一線で活躍していたミリンド・ソーマンの起用があるなど、見方によっては玄人向けの配役になっており、決して魅力を感じないわけではない。

 物語の主な舞台となるのは、ジェー・ワーディヤー(プラティーク・バッバル)が経営し、自らバーテンダーも務めるトラック・バー(Track Bar)というバーである。受賞歴のあるジャーナリストで起業家のダーミニー・リズヴィー・ロイ(サヤーニー・グプター)、バツイチの弁護士アンジャナー・メーナン(キールティ・クルハリ)、ジムトレーナーのウマング・スィン(バーニーJ)、太めのお嬢様スィディー・パテール(マーンヴィー・ガグルー)はこのトラック・バーで偶然出会い、意気投合したことで、親友となる。

 このトラック・バーの入口にはデカデカと「Truck Bar」というネオン看板が掲げられているのだが、四人が出会った夜、このネオン看板は、ジェーの元恋人マイラー(ニミシャー・メヘラー)によって一部壊されており、「Fuck Bar」に見えるようになっていた。その「Fuck Bar」で出会った女性たちが主に話題にするのもセックスのことばかりである。いわゆる女子トークというやつだが、インド人女性の間で本当にそのような卑猥な会話が堂々となされているのかは分からない。どうも「セックス・アンド・ザ・シティ」を曲解して無理矢理インドに当てはめてしまっているように感じられてならなず、現実感に欠ける。もちろん、インド人女子の間でも本当にそういう会話がなされている可能性はあるので決め付けはできない。

 それぞれのキャラクターについてもう少し深く掘り下げていこう。

 ダーミニーは、4人の女性たちの間でも主役格だ。「勇敢な記者」賞を3回連続で受賞するほど有能なジャーナリストであり、「Investigator.com」というウェブニュースサイトを立ち上げる起業家でもあった。ただし、幼少時から強迫症を発症しており極度の潔癖症で、しかもプライベートは安定性に欠けた。時々会ってセックスをするだけのセフレをキープした上で、婦人科医のアーミル・ワールスィー(ミリンド・ソーマン)にアタックしていた。無闇にアーミルを訪ねては膣を診断してもらい、彼との会話を楽しんでいたのである。

 アンジャナーは、元夫ヴァルン(ニール・ブーパーラム)との間にアーリヤーという娘をもうけていた。アーリヤーは普段はアンジャナーが育てていたが、時々ヴァルンが来て預かっていた。最近、ヴァルンにはカーヴィヤー(アムリター・プリー)という恋人ができ、アーリヤーも彼女に懐くようになっていた。ヴァルンがカーヴィヤーとの再婚を考えていることを知るとアンジャナーは落ち着かなくなる。だが、彼女の勤める弁護士事務所に年下の男性アルジュン(アンクル・ラーティー)がインターンにやって来ると、彼のことが気になり出す。

 ウマングはバイセクシャルだったが、どちらかといえばレズビアンに傾いていた。パンジャーブ州ルディヤーナー出身で、故郷にはピンキーというガールフレンドがいたが、彼女はウマングの兄と結婚してしまう。傷心のウマングは故郷を捨てムンバイーにやって来て、ジムトレーナーをして生計を立てていた。あるときウマングは、憧れのスーパースターのサマラー・カプール(リサ・レー)と出会い、彼女のパーソナルトレーナーになる。サマラーはレズビアンではなかったが、ウマングが彼女をその道に誘い、二人は付き合うことになる。

 スィディーは、裕福なグジャラート人実業家の家に生まれ、何不自由なく育ってきたが、子供の頃から彼女を束縛してきた母親スネーハー(シモン・スィン)とは犬猿の仲だった。スネーハーの目下の心配事はスィディーの結婚であり、太めの彼女にダイエットを強要していた。スィディーはこれまで男性と付き合ったことがなく処女だった。何度もお見合いをするが、なかなかうまくいかなかった。モーヒト(パーラス・トーマル)とは馬が合うが、彼はゲイだった。破談にはなるが、その後モーヒトとは親友になる。自分の身体に自信が持てなかったスィディーは、あるときオンラインサイトで自分の下着姿を披露し、好意的なコメントがたくさん寄せられたことで、ネットでの裸体露出にはまる。

 女性監督の作った女性中心映画などからよく感じることなのだが、この「Four More Shots Please!」も、女性キャラの複雑な心情描写に男性監督には到底真似できない繊細さがある代わりに、男性キャラの描写が非常に弱い。それぞれの人生を楽しみ、時に戦い、時に助け合う女性たちがパワフルに描かれているのと対照的に、彼女たちを取り巻く男性たちはどれも女性の勝手な理想を凝縮したような非現実的で主体性に乏しいキャラばかりだ。バーテンダーのジェー、婦人科医のアーミル、元夫ヴァルン、インターン生のアルジュンなど、それぞれ違うキャラながら、女性にとって都合のいい男性という共通点を持っている。

 それはそうとして、この映画でもっとも話題になっているのは、性描写である。インド社会の限界を超えた性描写に挑戦しており、セックス、マスターベーション、オーガズム、処女喪失、同性愛、あらゆる事象が女性視点から赤裸々に語られる。いくら時代が進展したとはいえ、インド社会はまだまだ保守的であり、女性が飲酒することすらまだはばかられる。そのような社会において、このようなタブーがあからさまに描写されるウェブドラマには、女性たち自身から激しい拒否反応も出ている。「Four More Shots Please!」は大人気のシリーズになっているものの、フェミニズムの名の下に、身勝手な振るまいをする女性たちを正当化して提示しインド社会に害悪をもたらす「有害なフェミニズム」という批判も受けている。

 別の視点から見れば、ウェブドラマであるからこそこのような性描写が可能になったのだともいえる。インドの映画館で映画を上映するためには中央映画認証局(CBFC)の検閲を受けなければならず、過激な性描写には必ず物言いが付く。だが、ウェブ映画やウェブドラマはCBFCの管轄ではなく、かなり自由に作品を作ることができてしまっている。今のところはやった者勝ち状態だ。

 しかしながら、そのような過激な性描写を一旦脇に置いておいて、男性キャラたちの弱さにも寛大な心で目をつぶり、純粋にストーリーの面白さに焦点を当ててみると、ついつい先が気になり次のエピソードを続けて観てしまうような、優れたウェブドラマに必ず見られる中毒性のある面白さがあることも確かである。それゆえにヒットしたのだろう。

 「Four More Shots Please!」は、ウェブドラマではあるが、法律の穴を付く形で、映画ではできない領域に踏み込んだ記念碑的作品である。インド社会の常識を超えた性描写は数々の批判にさらされているものの、物議を醸した分だけ支持も集めており、影響力を持つようになっている。映画の文脈でも決して無視できない作品であり、抑えておく必要があるだろう。