Gandhi

5.0
Gandhi
「Gandhi」

 「インド独立の父」と呼ばれるマハートマー・ガーンディーの伝記映画「Gandhi」は、世界の映画史に燦然と輝く傑作中の傑作と誉れ高い。英印合作のこの映画は、アカデミー賞11部門ノミネート、8部門受賞など、非常に高い評価を受けたし、興行的にも成功した。インドでは1982年11月30日に公開された。邦題は「ガンジー」である。過去に一度鑑賞済みだったが、このレビューを書くために改めて観たのは2023年12月14日である。

 監督はリチャード・アッテンボロー。彼はプロデューサーも務めている。音楽はラヴィ・シャンカル。主役のモーハンダース・カラムチャンド・ガーンディーを演じるのは、インド人の血を引く英国人俳優ベン・キングスレー。また、多くのインド人俳優が出演している。ローヒニー・ハッタンガーディー、ローシャン・セート、サイード・ジャーファリー、ヴィーレーンドラ・ラズダーン、ハビーブ・タンヴィール、アリーク・パダムスィー、アムリーシュ・プリー、オーム・プリー、ダリープ・ターヒル、パンカジ・カプール、アナング・デーサーイー、ハルシュ・ナイヤル、スプリヤー・パータク、ニーナー・グプター、トム・アルター、アーローク・ナート、モーハン・アーガーシェーなどである。

 映画は史実に忠実に基づいて作られており、ガーンディーの人生のハイライトがほぼ時系列で映し出され、ストーリーが進んでいく。

 冒頭こそ、ガーンディーが暗殺された1948年1月30日や、その後の国葬の様子が再現されるが、それ以降は時間が巻き戻され、ガーンディーの南アフリカ時代から物語が始まる。つまり、幼少時代やロンドン留学時代は飛ばされている。

 グジャラート地方の港町ポールバンダルで生まれたガーンディーは、弁護士の資格を取るためロンドンに留学し、その後は南アフリカに渡る。彼の人生の大きな転機になったのは、南アフリカで人種差別を受けたことだ。当時、南アフリカは大英帝国の一部で、有色人種の隔離政策、いわゆるアパルトヘイトが行われていた。ロンドンで弁護士資格を取ったガーンディーは英国紳士として南アフリカを訪れ、一等車に乗車するが、有色人種ということで差別され、列車から放り出される。1893年の出来事だった。その屈辱が彼に活動家としての道を切り拓く。

 南アフリカで差別と英国支配に立ち向かったことでガーンディーの名声はインドにも響き渡った。1915年にガーンディーはインドに戻るが、インドの人々から大歓迎を受ける。特に英国当局に対して自治を求め始めていた国民会議派はガーンディーを引き込もうとする。

 ただ、当時の国民会議派はインテリ層のサロンになっており、庶民の現実とは切り離されていた。ガーンディーは、今インドが自治や独立を勝ち取っても、英国人に代わってインテリ層のインド人が支配者になるだけだと直感し、庶民のためのインドを思い描くようになる。庶民の支持を勝ち取るため、ガーンディーは衣服や塩といった具体的な事物をシンボルとする。ガーンディーは何度も逮捕されるが、その度に彼の人気は高まっていった。

 英印の合作かつ英国人監督の作品であるためだろう、英国があからさまな悪役として描かれることは少なかった。むしろ、ガーンディーも当初は大英帝国の一員として大英帝国の法律の範囲内で人権を勝ち取ろうとしており、英国を持ち上げるような意志さえも感じた。ただ、アムリトサル虐殺事件はしっかり描写されていた。

 英国人よりも悪役として目立ったのは、パーキスターンの初代総督ムハンマド・アリー・ジンナーだ。登場当初からジンナーはガーンディーを見下すような態度を取っており、いざインドの独立が間近になると、イスラーム教徒のための国家であるパーキスターンの分離独立を要求し出して、ガーンディーたちを困らせる。ガーンディーは、ヒンドゥー教徒とイスラーム教徒が共存する新生国家インドを望んだが、少数派のイスラーム教徒が多数派のヒンドゥー教徒に支配されることを恐れたジンナーは、イスラーム教徒が多く住む、インド亜大陸の東西をパーキスターンの領土として求めた。結局、その要求は通ってしまい、1947年に印パは分離独立することになったのである。

 もちろん、ガーンディーを暗殺したナートゥーラーム・ゴードセーも悪役といえば悪役なのだが、彼にスポットライトが当たった映画ではなかった。

 インド独立に貢献した実在の政治家や活動家たちが実名で登場する。インドの初代首相になったジャワーハルラール・ネルー(ローシャン・セート)、初代副首相サルダール・バッラブバーイー・パテール(サイード・ジャーファリー)、初代教育大臣マウラーナー・アブドゥル・カラーム・アーザード(ヴィーレーンドラ・ラズダーン)、そしてジンナー(アリーク・パダムスィー)などだ。

 また、21世紀の視点でこの映画を観ると、かなり有名な俳優たちの若かりし頃が見られて面白い。アムリーシュ・プリー、オーム・プリー、ダリープ・ターヒル、パンカジ・カプール、スプリヤー・パータク、ニーナー・グプター、トム・アルター、アーローク・ナート、モーハン・アーガーシェーなどが端役で出演している。

 ネルーやその娘で第3代の首相になったインディラー・ガーンディーの全面的な協力を得て撮影されただけあって、エキストラやロケ地などにも全く手抜かりがない。インド政府の協力なしには、外国人の映画監督がここまでの動員力をもってインドで映画を撮ることは不可能であろう。それ故に、インド人が観てもおかしくないインドがそこに再現されており、信頼性と迫力のある映像になっている。それらはこの映画の大きな見所だ。

 「Gandhi」を一通り観れば、ガーンディーがどのような人物で、どのような思想を持っていたのか、そして彼がどのように非暴力を武器とし、圧倒的な権力を誇る大英帝国に立ち向かっていったのか、よく分かる。それは史実に忠実に作られた伝記映画の強みだ。もちろん、時間内に収めるために割愛されたエピソードも多くあるだろう。それでも、ガーンディーを知るためには今でももっとも適した映画であることは間違いない。

 「Gandhi」は、非暴力主義を掲げてインドを独立に導いたマハートマー・ガーンディーの正統な伝記映画である。世界の映画史に残る偉大な傑作でもある。必見の映画だ。