Mr. White Mr. Black

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Mr. White Mr. Black
「Mr. White Mr. Black」

 2008年5月2日公開の「Mr. White Mr. Black」は、プリヤダルシャン監督が得意とするような大人数ドタバタ劇系コメディー映画である。

 監督は「Julie」(2004年)のディーパク・シヴダーサーニー。主演はスニール・シェッティーとアルシャド・ワールスィー。1990年代を代表する人気俳優だったスニールは、2000年代に入り伸び悩み、新境地の開拓を必要としていた。一方のアルシャドは「Munna Bhai M.B.B.S.」(2003年)のサーキット役でブレイクし、いくつかの主演作も得たが、似たような役柄ばかりで起用された上に、ステレオタイプから外れた役ではほとんど受けなかった。この2人の共演は目新しさがあり、それがこの映画の最大の売りであろう。

 題名からは、善人と悪人が登場する映画であることが予想されるが、正にその通りである。天然ボケともいえるほどお人好しな善人ゴーピーを演じるのがスニール、金品に目がなく泥棒稼業をしている悪人キシャンを演じるのがアルシャドである。

 他に、シャラト・サクセーナー、マノージ・ジョーシー、アーシーシュ・ヴィディヤールティー、ヴラジェーシュ・ヒールジー、サダーシヴ・アムラープルカル、アニシュカー・コースラー、ラシュミー・ニガム、サンディヤー・ムリドゥル、タニア・ザエッタ、カマラー・ニン、マヒマー・メヘター、ウパーサナー・スィンなどが出演している。男優陣はコミックロールに定評のある脇役俳優たちだが、女優陣はほとんどが無名である。もっとも知名度があるのはサンディヤー・ムリドゥルくらいだが、彼女にしてもそれほど重要な役は与えられていない。

 公開時にはインドに滞在していたが見逃しており、2023年11月16日に鑑賞してこのレビューを書いている。

 ドン・ラードラー(アーシーシュ・ヴィディヤールティー)が保有していた2億5千万ルピー相当のダイヤモンドが、ティニー(サンディヤー・ムリドゥル)、ミニー(タニア・ザエッタ)、ジニー(カマラー・ニン)の三人組強盗に奪われた。ドンは3人がゴアにいるとの情報を入手し、ゴアに降り立つ。

 ゴーピー(スニール・シェッティー)は、ホーシヤールプルの土地の相続人キシャン(アルシャド・ワールスィー)を探しにゴアにやって来る。キシャンは詐欺や泥棒を働いて生計を立てていた。キシャンにはアヌラーダー(ラシュミー・ニガム)という恋人がいた。アヌラーダーには、双子の弟ハリが悪事を働いていると伝えていたが、実はハリなど存在せず、キシャンが自分の悪事を架空のハリに押しつけているだけだった。ゴーピーはたまたま悪漢の魔の手から救い出したタニヤー(アニシュカー・コースラー)に誘われ、彼女の父親クルブーシャン・グプター(サダーシヴ・アムラープルカル)の経営するKGグループのホテルに滞在することになる。ゴーピーとタニヤーは恋に落ちる。ゴーピーはキシャンを探し当てるが、キシャンはホーシヤールプルへの交通費が工面できるまでは行かないと言い張る。

 キシャンにはディヴィヤー(マヒマー・メヘター)という妹がおり、ロンドンに留学していた。キシャンは盗んだ金をディヴィヤーの学費に充てていた。ディヴィヤーはロンドンで出会った男性と結婚することになり、父親と共にゴアにやって来る。キシャンはディヴィヤーに、ゴアでホテル経営者として成功していると嘘を言ってしまっていた。そこでキシャンはゴーピーに相談する。その話を聞いたアヌラーダーは、KGグループのホテルを1ヶ月だけGKグループに改名し、ゴーピーとキシャンに経営権を渡す。おかげでディヴィヤーの婚約式と結婚式がホテルで盛大に行われた。

 キシャンは、ティニー、ミニー、ジニーが2億5千万ルピーのダイヤモンドを持っていると聞き、彼女たちを追跡する。そして彼女たちの隙を見てダイヤモンドを盗み出す。キシャンはドンに捕まるが、事前にダイヤモンドを金庫に隠していた。そのダイヤモンドは、悪徳タクシー運転手トゥルスィー(マノージ・ジョーシー)やホテルに泊まっていたサルダール(ヴラジェーシュ・ヒールジー)の手に渡った後、人々の間で争奪戦となる。

 最終的にダイヤモンドを手にしたゴーピーは、キシャンと共に逃げ出すが、ブラウン警部補(シャラト・サクセーナー)に捕まる。ゴーピーはダイヤモンドを警察に引き渡す。その後、ゴーピーはキシャンをホーシヤールプルに連れて行く。キシャンが相続した土地の価値は2億5千万ルピーになっていた。

 雑然としたコメディー映画である。ただでさえ登場人物が多いのだが、特に似たような顔の無名女優が多数登場するため、気を抜いていると誰が誰だか分からなくなる。それぞれの人物設定も雑だ。たとえばティニー、ミニー、ジニーという女性強盗トリオがいたが、彼女たちが一体全体何者で、なぜダイヤモンドを盗んだのか、最後まで観てもとうとう分からない。ストーリーもしっちゃかめっちゃかだ。

 ひとつひとつのコメディー部分については思わず吹き出してしまうものもあった。主演のアルシャド・ワールスィーをはじめ有能なコメディアン俳優たちが揃っていたことが大きい。個々のお笑いスキルによって部分的な面白さを生み出していた。よって、コメディー映画としては完全に失敗していたわけではない。それでも、それは支離滅裂な映画を作っていい免罪符にはなっていない。

 音楽監督はジャティン・ラリトである。ジャティン・パンディトとラリト・パンディトの兄弟による作曲家コンビであるが、彼らは実は2006年にコンビを解消している。この映画の音楽は、実はジャティンとラリトがコンビ解消後に初めて一緒に作曲している。ただし、彼らの全盛期は1990年代だ。どうしても古臭さが出てしまっている。

 また、エンドロール曲の「Tu Makke Di Roti」では、ダレール・メヘンディーとミカ・スィンが共演してている。どちらも人気のパンジャービー歌手であるが、実は2人は兄弟であり、彼らが一緒に歌うのはこれが初である。

 「Mr. White Mr. Black」は、優秀なコメディアン俳優たちを多数起用したコメディー映画であるが、小粒な女優を多く散りばめすぎたことと人物設定やストーリーの詰めが甘いことから、完成度の低い作品になってしまっている。無理して観る必要はない映画である。