2014年6月13日公開の「Machhli Jal Ki Rani Hai」は、スワラー・バースカル主演のホラー映画である。題名は「魚は水の女王です」という意味だ。これはインドで親しまれている童謡の一節であり、以下のように続く。
मछली जल की रानी है
जीवन उसका पानी है
हाथ लगाओगे तो डर जाएगी
बाहर निकालोगे तो मर जाएगी
魚は水の女王です
水なしでは生きられません
手を近づけると怖がります
外に出すと死んでしまいます
童謡にしては生死に言及した、よく考えると少し怖い歌であり、映画「Machhli Jal Ki Rani Hai」はそれを付いたホラー映画だといえる。題名のみならず映画の中にもこの童謡が何度か使われる。
監督はデーバロイ・デー。1990年代に「Chandra Mukhi」(1993年)というサルマーン・カーンとシュリーデーヴィーが主演の映画を撮っているが、それ以降はほとんど表舞台に出ていない。「Machhli Jal Ki Rani Hai」は彼がほぼ20年振りに撮った映画になる。
主演のスワラー・バースカルは「Raanjhanaa」(2013年)で注目を浴びた女優であり、この映画の撮影時はキャリアが軌道に乗り始めている頃だったと思われる。ホラー映画のヒロインというのは女優が一度は演じてみたい役柄だと思われ、幽霊に取り憑かれたシーンなど、彼女なりの表現に挑戦している。
他に、ディープラージ・ラーナー、バーヌ・ウダイ、ムルリー・シャルマー、リーマー・デーブナート、ヘーマント・パーンデーイなどが出演している。
ムンバイー在住のウダイ・サクセーナー(バーヌ・ウダイ)とアーイシャー(スワラー・バースカル)の間にはサニーという息子がいた。ウダイは、マディヤ・プラデーシュ州ジャバルプルの工場長を任され、家族と共に引っ越す。ジャバルプルはウダイとアーイシャーにとって故郷であった。アーイシャーは交通事故を起こしてトラウマを抱えており、ウダイは彼女の気分転換のためにもジャバルプルへの引っ越しを推し進めたのだった。 彼らは会社が用意したゲストハウスに住むことになる。そのゲストハウスは森の中の静かな場所にあったが、隣にひとつ家族が住んでいた。サニーはその家族の娘グッディーと仲良くなる。アーイシャーはグッディーの母親ウルミー(リーマー・デーブナート)と会話を交わすが、ウルミーの夫マノーハル(ムルリー・シャルマー)は気難しい人物のようであった。 引っ越し直後からアーイシャーはその家で異変を感じ、やがてその家に何かがいると信じるようになる。ウダイの勤める工場では事故によって労働者が一人死に、ゲストハウスではメイドが変死をする。ウダイは、アーイシャーの父親で精神科医のアキレーシュ・トリヴェーディーの助言に従って彼女を一人にしないために工場に連れて来る。そこでアーイシャーは古い写真を見て、隣に住む家族が写っているのを発見する。工場労働者の話では、その家族は何十年も前の工場長一家で、横領が発覚して心中したとのことだった。 アーイシャーはサニーをウルミーに預けたことを思い出し、急いで家に帰る。アーイシャーはマノーハル、ウルミー、グッディーの亡霊に取り憑かれ、ウダイやアキレーシュを攻撃し始める。アキレーシュは、知己の霊媒師ウグラ・プラタープ・スィン(ディープラージ・ラーナー)を呼び寄せる。ウグラは先祖代々の仕事を継いで霊媒師になったが、数年前に除霊に失敗し、家族を皆殺しにされていた。しかも家族殺しの罪をなすりつけられ、精神病院に入院していたのである。 アキレーシュはアーイシャーに取り憑いた亡霊と対峙する。そして苦闘の末にアーイシャーから亡霊を取り除くことに成功する。また、サニーは溺れかかっていたが、アキレーシュによって助け出される。
基本は、古い屋敷に住み始めたことで亡霊に悩まされ、やがて取り憑かれて霊媒師によって除霊されるという流れのホラー映画である。低予算映画であり、しかも映像と音によって観客を無理に怖がらせる原始的な手法が採られていて、目新しさは少ない。亡霊に取り憑かれたアーイシャーが宙に浮いて飛んだりするような特撮シーンもあったが、その出来は素人に毛が生えた程度だ。
亡霊が登場するホラー映画で重要な要素は、その亡霊がどんな恨みを持っていて、なぜ該当者を襲うのかを論理的に説明することである。亡霊の存在に科学的な説明は必ずしも必要ないが、その亡霊のバックグランドがしっかりしていると観客も感情移入しやすくなる。その点では「Machhli Jal Ki Rani Hai」は及第点だったといえる。横領が発覚して一家心中した元工場長の家族が、会社を逆恨みして、工場の稼働を邪魔したり、現工場長の家族を襲ったりしていたのだった。
この映画で興味を引かれたのは、本筋以外の部分に盛り付けがなされていたことである。例えば主人公アーイシャーは、終盤には亡霊に取り憑かれるのだが、序盤では交通死亡事故を起こしたトラウマに悩まされていた。結局、その交通事故と今回の亡霊とは無関係だったのだが、「家に何かいる」と訴える彼女の発言を夫のウダイがなかなか信じない伏線にもなっていた。
最終的に事件を解決する霊媒師ウグラ・プラタープ・スィンも主人公級の登場の仕方をする。そもそも映画開始と同時にまず現れるのは彼で、彼自身のナレーションによって物語が幕を開けるのである。ウグラ役を演じるディープラージ・ラーナーはよく脇役で顔を見るのだが、今回は主演に近い役割を与えられており、張り切っている様子がうかがわれた。
ゲストハウスで使用人として働くラージャーラーム(ヘーマント・パーンデーイ)もいい味を出しており、もしかしたら彼がゲストハウスで起きている異変に関与しているかもしれないと思っていたが、当て馬だった。
とはいえ、何と言っても「Machhli Jal Ki Rani Hai」はスワラー・バースカルの映画だ。終始、彼女の不安定な心理状態に焦点が当てられ、終盤には亡霊に取り憑かれるシーンを演技力によって表現する。低予算映画なだけあって、CGや特撮よりも演技力で憑依を表現する機会が与えられていた。なぜスワラーを起用したのかが終盤になると分かる。
ほぼ全編、マディヤ・プラデーシュ州のジャバルプルで撮影されている。そして、ジャバルプルの有名な観光名所がわざとらしく登場する。冒頭、ウグラの除霊失敗シーンに出て来るのはマダンマハルだ。大きな岩の上に建物が建っている、特徴的な建造物である。映画の最後でウグラとアーイシャーが対決する場所はベーラーガートで、マーブルロックやドゥアーンダール滝で有名な景勝地である。
「Machhli Jal Ki Rani Hai」は、低予算のホラー映画であり、どこかで見たようなストーリーによくあるホラーシーンをまぶした、何の変哲もない作品だ。唯一、主演のスワラー・バースカルが演技力によってホラーシーンを演出しており、見所になっている。ジャバルプルでロケが行われている点も特筆すべきだ。それ以外の見所を探すのは難しい作品である。