2021年6月24日に香港のアジア映画芸術国際映画祭(AFAIF)でプレミア上映された「Monkey Enters Lanka」は、インド二大叙事詩のひとつ「ラーマーヤナ」を題材にした、実写とアニメのハイブリッド映画である。ただし、インド映画ではなく、国籍は英国のようだ。言語も英語である。同年には日本のインディーズフィルムフェスティバルでも上映されている。Amazon Prime Videoでは「怒れ ハヌマーン!ランカの救出」という邦題が付けられ、英語字幕と並行して日本語字幕も付けられている。上映時間は30分ほどだ。
監督はサーイー・S・スレーンドラ。彼は主役ハヌマーンの声も担当している。ハヌマーンはアニメで描写されている。スィーター役を演じるのが小雨というロンドン在住の中国人らしき女優。ラーヴァナ役を演じるのはドヴェル・パテール。名前から察するにインド系である。
ラーマの命令を受けたハヌマーンがスィーターを探しにランカー島に潜入したところから物語は始まる。ハヌマーンはアショーカ庭園にスィーターがいるのを発見し、彼女にラーマからのメッセージを伝える。そしてラーヴァナの手下にわざと捕まり、ラーヴァナの前に連れて行かれる。ハヌマーンはラーヴァナをさんざん侮辱した後、尻尾に付けられた火を使ってそこら中を燃やす。
基本的には「ラーマーヤナ」の物語の一部を切り取ったものである。「ラーマーヤナ」といっても複数あるのだが、ヴァールミーキ(サンスクリット語)、トゥルスィーダース(アワディー語)、カンバン(タミル語)の「ラーマーヤナ」や、タイの「ラーマキエン」、そして中国の「西遊記」に基づいていると提示されていた。
それを反映して、映画ではデーヴァナーガリー文字の他にタイ文字や漢字も使われる。一瞬ではあるが日本語でも「ラーマ」と書かれているのを見つけた。「ラーマーヤナ」はインドのみならず、アジア一帯に広まっているということを示したかったのだろう。
また、なぜかラーヴァナに幽閉された女性たちの中には中国人やフランス人も含まれており、彼女たちはそれぞれの言葉でしゃべっていた。
ハヌマーンがスィーター及びラーヴァナと交わす会話が中心の映画であり、それらが実写とアニメを使って表現されている。また、白黒の映像とカラーの映像も混ぜて使われ、独特の世界観が構築されている。音楽についてもインド人のセンスから外れたもので、妙な浮遊感がある。
「Monkey Enters Lanka」は、ハヌマーンを主人公にし、実写とアニメのハイブリッドで「ラーマーヤナ」の一場面を再現した映画である。グラフィックノベル的な大人向けの映像作品であり、「ラーマーヤナ」を多国籍に解釈した切り口や、新感覚の映像を楽しむ作品だ。