2023年4月7日公開の「Gumraah(迷宮入り)」は、実話に基づいた犯罪スリラー映画である。とある殺人事件の容疑者として、瓜二つの人間が現れ、警察が翻弄されるという筋書きだ。タミル語映画「Thadam」(2019年)のリメイクである。
監督は新人のヴァルダーン・ケートカル。主演はアーディティヤ・ロイ・カプールとムルナール・タークル。アーディティヤが一人二役を演じる。他に、ローニト・ロイ、ヴェーディカー、ディーパク・カルラーなどが出演している。
デリー在住の起業家アーカーシュ・サルダーナーが自宅で遺体で発見された。シヴァーニー・マートゥル警部補(ムルナール・タークル)は周辺の聞き込みにより犯人の顔が特定できる写真を入手する。ディーレーン・ヤーダヴ警部(ローニト・ロイ)はその人物を知っており、建設会社経営のアルジュン・セヘガル(アーディティヤ・ロイ・カプール)が逮捕される。事件は簡単に解決するかと思われたが、別の男が警察署に引っ張ってこられる。なんとその男の顔はアルジュンにそっくりだった。その男の名前はスーラジ・ラーナー、通称ロニー(アーディティヤ・ロイ・カプール)といった。 どちらかが犯人であろうことは予想できたが、シヴァーニー警部補はどちらが犯人かを特定する確固たる証拠を見つけることができなかった。DNAテストをしたところ、アルジュンとロニーのDNAは一致した。彼らは一卵性双生児だった。 実はヤーダヴ警部はアルジュンに恨みがあった。かつてアルジュンは、ヤーダヴ警部の娘の駆け落ちを手助けしたことがあったのだ。娘はいまだに行方不明だった。ヤーダヴ警部は何としてでもアルジュンを有罪に持ち込もうとする。だが、シヴァーニー警部補はロニーが犯人だと考えていた。ヤーダヴ警部の執念を知ったシヴァーニー警部補は何とかロニーに濡れ衣が着せられるのを防ごうとする。 結局、警察は裁判所に明確な証拠を提出することができず、アルジュンもロニーも無罪放免となる。事件が終わった後、シヴァーニー警部補はアルジュンの恋人ジャーンヴィー(ヴェーディカー)のことを知る。彼女はアーカーシュの元恋人で、アーカーシュに強姦された上に殺されていた。それを知ったアルジュンはアーカーシュを殺したが、異変を感じたロニーが彼を救うために芝居を打ったのだった。
映画は、アーディティヤ・ロイ・カプールが一人の男性を殺すシーンから始まる。しかも、写真という動かぬ証拠を警察は手にする。その手掛かりを元に、アーディティヤが演じるアルジュンという男性が容疑者として逮捕される。事件の時間にその現場で撮られた写真が証拠として突き付けられたため、もはや言い逃れ不可能だった。序盤のこの流れから、観客は全くサスペンス性を感じることなく物語の進行を見守ることになる。
ところがすぐに物語は意外な方向に動く。なんとアルジュンそっくりのロニーというキャラが登場するのである。アルジュンを有罪にするための有力な証拠が彼の顔が写った写真だったため、アルジュンに瓜二つであるロニーの登場は事件の解決を困難にする。二人の内のどちらが犯人なのか、しかもなぜこの二人はこんなにそっくりなのか、もう一人の主人公シヴァーニー警部補は観客と共に完全に意表を突かれた展開に呆然となる。
DNAテストの結果、二人は一卵性双生児であることが分かる。もちろん、お互いのことを知っていた。ただし、二人は犬猿の仲で、警察の前でも喧嘩を繰り広げた。アルジュンはロニーを犯人だと主張し、ロニーはアルジュンを犯人だと主張した。鑑識の助言によると、一卵性双生児であっても指紋は異なるという。シヴァーニー警部補は事件現場に戻って指紋を探すが見つからなかった。観客には、犯人が指紋を付けた植木鉢の存在が示されるものの、間抜けな警官のせいでその植木鉢は割れてしまい、証拠は消え去ってしまう。
この殺人事件とその捜査に加えて、アルジュンの恋人ジャーンヴィー、ロニーが抱えていた250万ルピーの借金、ヤーダヴ警部とアルジュンの因縁などが差し挟まれ、さらにストーリーは複雑になっていく。結局アルジュンとロニーは証拠不十分で無罪となるが、裁判が終わった後、シヴァーニー警部補はやっと事件の真相に気付く。真犯人はアルジュンであり、殺されたアーカーシュは彼の恋人を強姦殺人した張本人だったのだ。アルジュンとロニーは仲が悪かったものの、子供の頃から、どちらかが危機に陥ると団結して立ち向かう習性があった。今回も、アルジュンの危機を感じ取ったロニーは、警察を攪乱するため、わざと警察に捕まってアルジュンの近くに飛び込んだのだった。
アーディティヤ・ロイ・カプールは初めて一人二役を演じたが、それぞれに個性を付けて演技をしており、うまくこなしていた。アーディティヤからはあまりガツガツした出世欲を感じず、マイペースで映画に出演しているように見えるが、徐々に難しい役にも挑戦し始めている。
もう一人の主演ムルナール・タークルも女性警官役を好演していたものの、彼女が演じたシヴァーニー警部補はこの映画でもっとも弱いキャラだった。優秀な警官ということであろうが、常に仏頂面で任務を遂行しており、彼女の人間らしい一面を匂わすことができていなかった。
演技力に定評のあるローニト・ロイは平常運転の貫禄ある演技を見せていた。アルジュンの恋人ジャーンヴィーを演じたヴェーディカーは「Operation Romeo」(2022年)でデビューしたばかりの女優で、今回はセカンドヒロイン役だった。
エンディング後には、世界中で双子が関わった実際の事件が紹介されていた。双子が容疑者になると、顔やDNAが一致しているため、どちらが犯人かを特定するのが困難となる。実際にどちらかが犯人なのは分かっていても、警察が有力な証拠を見つけられず無罪放免になるケースがあるようだ。
「Gumraah」は、全くサスペンス性のない始まり方をしながら、双子というギミックを途中から入れ込むことで、一気に謎を深め観客を路頭に迷わすことに成功しているスリラー映画だ。主演アーディティヤ・ロイ・カプール渾身の一人二役も光っている。興行的には大失敗に終わっているものの、観て損はない佳作である。