One in a Billion (USA)

3.5
One in a Billion
「One in a Billion」

 サトナーム・スィンはNBAドラフト会議で指名を受け、米国でプロのバスケットボール選手になった初のインド人である。2016年11月2日からNetflixで配信開始された「One in a Billion」は、パンジャーブ州の農村で生まれ育ったサトナーム・スィンが渡米してプロ選手になるまでを追ったドキュメンタリー映画である。日本語字幕付きで、邦題は「サトナム:インド初のNBA選手となった男」になっている。

 監督はロマン・ガコウスキー。監督は、サトナームの生まれ故郷であるパンジャーブ州のバッロー・ケー村から始めて、サトナームの軌跡を丁寧に追っていっている。

 映画でも語られていたが、インドで一番人気のスポーツはクリケットであり、その圧倒的な人気は他のスポーツの正常な発展を妨げるほどである。もちろん、バスケットボールの知名度も低い。サトナームが生まれ育った農村は尚更だ。しかし、彼は長身の父親から遺伝子をしっかり受け継いだのか、9歳にして身長が175cmもあった。ちょうどパンジャーブ州ルディヤーナーにバスケットボールのアカデミーがあり、彼はそこでバスケットボールを習い始める。当初、サトナームはバスケットボールとバレーボールの違いも知らなかったというから、インドの農村でいかにバスケットボールが普及していないかが分かる。

 アカデミーに米国人のコーチが赴任したことで、サトナームの存在は米国にも知られるようになる。そして14歳にして渡米することになり、米国のスポーツマネージメント企業IMGが運営するIMGアカデミーに入学する。このとき彼の身長は198cmあった。

 サトナームはバスケットボールの本場で最高レベルのトレーニングを受けた。ただ、彼は英語が全くしゃべれなかった。IMGも最初の2年間はサトナームに英語を教えることを優先した。映画の中でサトナームはインタビューに答えているが、このときまでには流暢な英語を使いこなせるようになっていた。コーチや仲間と英語でコミュニケーションが取れるようになると、サトナームの技術は飛躍的に伸びたという。長身の選手はフットワークが悪いことが多いが、サトナームは体格の大きさを全く感じさせないほど機敏に動くことができ、しかも3ポイントシュートの命中率も高かった。米国での5年間は確実に彼を大きく成長させた。

 映画のハイライトは2015年のNBAドラフト会議だ。このときサトナームは19歳になっており、身長は218cmに達していた。このドラフトでサトナームは指名されるわけだが、決して平坦な道ではなかった。なかなか指名されず、嫌な雰囲気が流れ始める。もしかしたらこのまま選ばれずに終わるのではないかという結末が頭をよぎるが、最後の最後でようやくダラス・マーベリックスに指名された。こうして彼はインド人として初めてのNBAプレーヤーになったのである。

 「One in a Billion」は、どうも彼がドラフトに選ばれてから撮影を始めたドキュメンタリー映画ではなさそうだ。まだドラフト指名される前から彼に帯同して撮影していたと思われる映像もあったし、関係者のインタビューを見ても、まだ彼がプロのプレーヤーになる前に収録されたと思われるものもあった。よって、最後のドラフト会議では余計にハラハラさせられる。

 めでたくインド人初のNBAプレーヤーになったものの、一足飛びに中国出身の姚明のようにスター選手になったわけではない。一軍での試合出場はなく、プロレスの試合にも出場したりと、多少迷走しているように見える。身長が2m以上あり、センスがあっても、やはりNBAのトッププレーヤーたちと互角に戦うのは容易ではないと思われる。

 「One in a Billion」は、インド人初のNBA選手サトナーム・スィンのドキュメンタリー映画である。彼がNBAドラフト会議で指名されるまでの栄光の軌跡が記録されている。バスケットボール選手としてのすごさよりも、彼の人柄の良さが伝わってくる内容であり、彼を応援したくなる。サトナームのひたむきな姿と、彼を見守る周囲の人々の温かい声援が心地よい佳作である。