アーミル・カーン主演の「Dangal」(2016年/邦題:ダンガル きっと、つよくなる)とサルマーン・カーン主演の「Sultan」(2016年/邦題:スルタン)は、インド相撲の選手を主人公にした映画だった。インド相撲は現地語では「दंगल」や「कुश्ती」などと呼ばれ、力士は「पहलवान」と称される。
アメリカン・ドキュメンタリー映画祭で2017年4月2日にプレミア上映された米映画「Pehelwani」は、北インドのマトゥラーにある道場で撮影された10分ほどの短編映画である。題名の「Pehelwani」も相撲を意味する言葉のひとつだ。監督はペルー出身で米国在住の写真家、ジョアン・カンツィアーニである。アジアンドキュメンタリーズで「インド相撲」という邦題と共に配信されている。
監督の本業が写真家ということもあり、土まみれになって相撲をする力士たちの肉体を美しく描出することに力が注がれていると感じた。その合間に、被写体になっている力士たちがクシュティーについて語った言葉が流されるのだが、その内容に特に目新しい情報はない。クシュティーに生き甲斐を見出している様子が見て取れるのみだ。「師匠はジン(精霊)と戦った」ということを語っている人がいたのが多少面白かったくらいである。
むしろ、語りをほとんど入れず、ひたすらクシュティーに没頭する男たちをストイックに映し出した方が、より芸術的な作品になったかもしれない。急速に経済発展し、西洋的な価値観が怒濤の如く押し寄せてきているインドの片隅で、このような昔ながらの修行生活を送っている人々がいる姿は、言葉がなくても映像だけで十分に語ることができたはずだ。
ところで、このドキュメンタリー映画が撮影されたマトゥラーはクリシュナ神話(参照)の本拠地であり、クリシュナ生誕地寺院もある。とある力士が、この土の上でクリシュナとその兄バララーマが育っていったことを誇らしげに語っていたのが印象的だった。
「Pehelwani」は、マトゥラーのクシュティー道場で撮影されたドキュメンタリー映画である。「Dangal」などで題材になったインド人力士たちのリアルな姿を、写真家が本業の監督による美しい映像と共に堪能することができる。