ニューヨークのマンホール蓋には「Made in India」と刻まれているが、その刻印の通り、それらはインドで作られている。インド系米国人ドキュメンタリー映画監督ナターシャ・ラヘージャーは、カメラを片手に西ベンガル州ハーウラーの製造現場まで赴き、そこで働く労働者たちの姿をじっと撮り続けた。それが「Cast in India」である。26分ほどの短編ドキュメンタリー映画で、2014年11月16日にニューヨーク・ドキュメンタリー映画祭でプレミア上映された。アジアンドキュメンタリーズでは「鋳型の男たち」という邦題と共に配信されている。
監督がどういう意図を持ってこの映画を作り上げたのかは実際のところ不明である。マンホール蓋工場では、半裸の労働者たちが無防備な姿で溶銑を運んでいるような、危険な作業風景が映し出される。機械化は進んでおらず、人海戦術によって製造が行われている。また、賃上げのストライキをしている様子も一瞬だけ見えた。そのような映像から、劣悪な労働環境への批判を含む映画かと少し考えるのだが、最後まで見てもあまり決定打がなく、どうもそういう意図はないようだと結論づけるしかなくなる。単純に純粋な好奇心から、マンホール蓋の製造過程をカメラに収めているというのが正解かもしれない。
果たして労働者たちは、遠い異国の地で使われるマンホール蓋を作っていることについてどう思っているのだろうか。特に労働者のインタビューもないので、彼らの心情は推測するしかない。だが、誰かが「みんなで米国に行くぞ!」と叫んでいる場面があったので、彼らは一応、ニューヨークのマンホール蓋を作っているということぐらいは認識しているようだ。もしくは、米国から映画監督が自分たちを撮影しにやって来てくれたので嬉しくなってそう叫んだのだろうか。
「Cast in India」は、ハーウラーの工場にてニューヨークのマンホール蓋がインド人労働者たちによって製造されていく様子を淡々と映し出したドキュメンタリー映画である。監督は全くメッセージを発信しておらず、視聴者はひたすら工場労働者の作業工程を見守るしかない。捉えどころのない作品である。