Radhe

3.0
Radhe
「Radhe」

 インドでは2020年にコロナ禍が始まって以来、断続的に厳格なロックダウンが行われ、各方面に大きな影響が出た。映画界もそのひとつで、映画館が封鎖されたことで、新作映画の公開が途絶え、撮影もストップした。ロックダウン中に人々が自宅でOTTプラットフォームを使って映画などを楽しむようになり、映画館公開をせずに直接OTTプラットフォームで配信される作品も出て来た。

 そんな中、2021年5月13日公開の「Radhe」は変則的かつ実験的な公開方法を採った映画だ。劇場で一般公開されたが、それと同日にOTTプラットフォームのZee5にて、「Zeeplex」という有料プレミアコンテンツとして配信開始されたのである。Zee5は日本からでも視聴できるが、Zeeplexだけは地域の制限が掛かっており、インドからでしか視聴ができないようになっている。ただ、この映画は酷評され、失敗作の烙印を押されてしまった。その影響からか、「Radhe」の後にZeeplex配信の作品は続いていない。ちなみに、2022年末、インド旅行時にZee5のアカウントを使って視聴することができた。

 「Radhe」の監督はプラブデーヴァー、主演はサルマーン・カーンである。このコンビは過去に「Wanted」(2009年)と「Dabangg 3」(2019年)を成功させている。「Radhe」の主人公は破天荒な警官であり、「Dabangg」シリーズの主人公チュルブル・パーンデーイと類似しているが、一応「Radhe」と「Dabangg」は全く別である。また、サルマーンと「ラーデー」というと、サルマーン主演作「Tere Naam」(2003年)の主人公の名前がラーデーであった。それを意識した命名だと思われる。

 ヒロインはディシャー・パータニー。他に、ランディープ・フッダー、ジャッキー・シュロフ、スサーンシュ・パーンデーイ、メーガー・アーカーシュ、ゴーヴィンド・ナームデーヴ、ダルシャン・ジャリーワーラー、アルジュン・カーヌーンゴー、シャワール・アリーなどが出演している。また、アイテムソング「Dil De Diya」でジャクリーン・フェルナンデスがアイテムガール出演している。

 総じて、非常に豪華なキャストだといえる。

 ムンバイーでは若者の間でドラッグが蔓延しており、ドラッグを原因とした自殺も多発していた。警察は危機感を強め、破天荒な警察官ラーデー(サルマーン・カーン)を召喚する。

 ムンバイーのアンダーワールドはダグルー・ダーダーとディラーワル(スダーンシュ・パーンデーイ)という2人のギャングに支配されていたが、どちらもドラッグ密売とは無縁だった。そこでラーデーはこの二人を和解させ、謎のドラッグ密売人の情報を集めさせる。それによって浮上したのが、最近ムンバイーにやって来たラーナー(ランディープ・フッダー)という男であった。ラーナーは、ディラーワルの弟マンスール(アルジュン・カーヌーンゴー)と結託し、ディラーワルを殺して、ドラッグをさらに蔓延させようとしていた。

 一方、ラーデーはディヤー(ディシャー・パータニー)という美女と出会う。ラーデーは彼女を口説くが、途中から上司アヴィナーシュ・アビヤンカル警部(ジャッキー・シュロフ)の妹であることが分かる。しかし、ラーデーはアヴィナーシュ警部の弱みを握っていたため、彼から咎められることはなかった。

 ラーデーは何度もラーナーと対峙するが、ラーナーも手強く、何度も逃げられる。だが、最後には、ヘリコプターで国外逃亡しようとしていたラーナーを地上に引き戻し、彼を殺す。

 サルマーン・カーン主演のアクション映画としてはごくごくお約束通りのパターンで進む、安心印の娯楽映画だった。相変わらずサルマーンの演じる主人公ラーデーは、サルマーンのイメージ通りの、最強かつクレバー、そしてお茶目というキャラであるし、セクシーかつグラマラス、そしてチャーミングなディシャー・パータニーを使って華やかさを演出している。コレオグラファー出身のプラブデーヴァーが監督をしているだけあって、ダンスもキャッチーでパワフルだ。また、本作はイード公開のアクション映画だが、サルマーンはイードにアクション映画を公開し必ずヒットさせてきた。

 ただ、「Radhe」はやはり映画館でワイワイガヤガヤと観ることを前提として作られた映画である。まだコロナ禍が完全に収まっていない時期に映画館とOTTで同時に公開されたが、映画館で観るのは不安だし、配信で観るのも味気ない、そんな中途半端な作品として受け止められてしまったように思われる。Zeeplexでの249ルピーという値段設定も高く感じる。一昔前だったら普通にヒットしていた可能性もあるが、コロナ禍により人々の趣向が変わり、そのあおりを喰らった形である。

 上でも書いたが、主人公ラーデーは「Dabangg」シリーズのチュルブル・パーンデーイのキャラを踏襲している。観客にその暗黙の了解を求めているのか、ラーデーのイントロダクションには大して時間が割かれておらず、彼の家族構成もよく分からない。しかしながら、強きをくじき弱きを助ける行動原理はインド映画のヒーローそのもので、細かいところを気にせずに彼のアクションとヒーロー振りを楽しむことになる。

 ヒロインのディシャー・パータニーは、現在のヒンディー語映画界の中で、「中身空っぽのセクシー美女」を演じさせたら右に出る者はいないヒロイン女優だ。変に演技派ぶっておらず、自分の役割をわきまえているところがあり、ヒーロー主体の映画には使いやすい人材だ。サルマーンとの年齢差は27歳だが、それをほとんど感じさせないのは、サルマーンの若作りにも一因があるが、主因は彼女特有のおじさん好みする天真爛漫さのおかげであろう。

 悪役にランディープ・フッダーを据えたのもよかった。「Dabangg」シリーズでもパワフルな男優を悪役に起用していたが、その流れを感じる。しかも、サルマーンと対等に渡り合える強さや狡猾さを持ったキャラで、手強かった。また、ジャッキー・シュロフがサポート役で出演しており、当初は悪役的な立ち位置だったが、すぐにコミックロールに転じていた。その意外性が面白かった。

 プラブデーヴァーの映画はダンスも楽しみだ。今回は彼がカメオ出演してダンスを披露する場面はなかったが、ディシャーのセクシーなダンスが圧巻の「Seeti Maar」やエンドクレジットの「Radhe – Title Track」など、いいダンスシーンが多かった。

 「Radhe」は、プラブデーヴァー監督とサルマーン・カーンがタイアップし、ヒロインのディシャー・パータニーなど、豪華なキャスト陣で送る、イード公開の、お約束満載のアクション映画である。一昔前ならヒットする要素があったのだが、コロナ禍の煽りを受け、中途半端な公開となったことや観客の趣向が変わったことで、暗礁に乗り上げてしまった不幸な作品だ。しかし、「Seeti Maar」などの曲やダンスによって後世まで残ることにもなるだろう。