2019年8月7日からZee5で配信開始された「Barot House」は、実話に基づくサスペンス映画である。有名スターの出演はないが、若年性の統合失調症を主題にした、かなり怖い物語だ。
監督は新人のバグス・バールガヴァ・クリシュナ。キャストは、アミト・サード、マンジャリー・ファドニス、アーリヤン・メーングジー、アスィーム・ハッタンガディーなど。
舞台はダマン。バーロート家の邸宅には、タクシー運転手のアミト(アミト・サード)、妻のバーヴナー(マンジャリー・ファドニス)、長男のマラール(アーリヤン・メーングジー)と3人の娘、シュレーヤー、シュルティ、スネーハー、そしてアミトの母親と弟アジャイが住んでいた。また、バーロート家の邸宅の一角にはアンソニー(アスィーム・ハッタンガディー)とその家族も住んでいた。アミトとアンソニーの父親時代の借金などの関係で、アンソニーの一家がバーロート・ハウスの一部に住むことになったのだった。アミトは、タブラー奏者を目指す9歳のマラールを可愛がっていた。一方、シュレーヤーとシュルティは、バーヴナーがアンソニーと不倫してできた子供だと信じ込んでいた。 ジャナマーシュトミー祭の日、かくれんぼをしていたシュレーヤーが墓場で遺体で見つかる。その喪も開けない内に今度はシュルティまで何者かに殺される。警察は、アンソニー、アジャイ、アミトの3人に犯人の可能性があると考え、まずはアンソニーを尋問し、次にアジャイを逮捕する。だが、今度はアンソニーの息子ローシャンまでもが殺された。 アミトは、マラールが3人を殺したのではないかと疑うようになり、彼に問いつめる。マラールはあっさりとそれを認める。容疑が自分に掛かりそうになったアミトは、マラールが犯人だと警察に白状する。マラールもそれを認めたため、少年院に移送される。 少年院でマラールは父親が殺人をしている絵を描く。それが警察に渡り、アミトが真犯人として逮捕される。代わりにマラールは解放される。だが、バーヴナーはマラールが赤ん坊のスネーハーを井戸に落としているところを目撃し、やはりマラールが真犯人だったことが分かる。
まずはシュレーヤーの殺人事件から物語が始まり、そこから過去に遡って、犯人の可能性がある人物たちの行動が紹介される。隣人のアンソニーは、犬が殺されたことで、アミトの家族に恨みを持っていた。アミトの弟アジャイは、相続で兄と揉めていた。二人とも動機があったが、それでも恨みの対象が子供に向かうことはよく説明されなかった。そうこうしている内にバーロート・ハウスで第二の殺人が起こる。
早い時間帯でマラールが犯人であることは観客に明かされる。中盤は、息子が連続殺人犯になってしまったことを知った父親の苦悩が中心になる。彼はすぐには警察に通報せず、何とか息子を守り抜こうとする。そして、さらなる殺人をさせないように監視する。しかし、隙を突いてマラールは隣人の子供を殺し、第三の殺人を犯してしまう。それを知ったアミトは、とんでもない怪物になってしまったマラールの首に縄を掛けて殺そうともする。だが、最愛の息子に対してそんなことはできなかった。結局アミトはマラールを警察に突き出すことになる。
しかしながら、9歳の少年マラールが本当に3件の殺人を犯したのか、疑問の余地が残される。少年院でのマラールの純真な姿を描写することで、観客にも、もしかしたらマラールが犯人ではないのではないかという印象を抱かせる工夫がなされていた。そしてとうとうマラールは無実であると結論づけられ、代わりに父親のアミトが逮捕される。だが、それら全てがマラールの策略だった。
「Barot House」は、実際に起こった事件の映画化であり、映画の最後では、これは、幼年時から統合失調症が発症した珍しいケースだと説明される。マラールが妹を殺すのは、父親が違うためという動機の説明がされていた。だが、ローシャンを殺したのはそれでは説明が付かない。結局、マラールは殺人を楽しんでいたといえる。しかもマラールの知能は異常に高く、少年院に入った後は、父親に容疑が移るように巧みに大人の心情をコントロールしていた。
もし彼が第四の殺人を犯さなければ、そのままアミトが犯人として刑罰の対象になっただろうが、アミトの逮捕中に母親バーヴナーの前でマラールが残った妹のスネーハーを井戸に落としたことで、やはりマラールが真犯人だということが分かる。いかに悪賢いマラールであっても、殺人の衝動は克服できなかったようで、これが事件解決の決定打になった。
無邪気そうに見える子供が次々に子供を冷酷に殺していくという内容がショッキングな映画だ。しかも実話に基づいているということで、現実に起こり得る出来事だということが強調されていた。また、構成に工夫がされており、真犯人の確定が最後まで不安定なところが大きなサスペンスを生んでいる。よくできた映画だった。
アミト・サードやマンジャリー・ファドニスなどの演技も良かったが、何と言ってもマラール役を演じた子役のアーリヤン・メーングジーが天才的な演技をしていた。あまり好きな言葉ではないが、「天才子役」という称号を与えてもいいだろう。無邪気さと不気味さを同居させたような表情を作ることができ、彼が犯人なのか犯人でないのか、最後までサスペンスを維持するのに多大な貢献をしていた。
元々ポルトガル領だったダマンが舞台の珍しい映画で、実際にロケも行われている。ダマンは、ダードラー&ナガル・ハヴェーリーとダマン&ディーウ準州という連邦直轄地の主都である。ダマンが舞台に選ばれた理由は不明であるが、元ポルトガル領だったこともあってキリスト教徒の人口が多く、映画の中でも教会などのキリスト教的モチーフが何度か出て来た。ちなみにバーロート家はヒンドゥー教徒であるが、隣人のアンソニーはキリスト教徒である。
「Barot House」の着想源になった実話とは、おそらく「世界最年少の連続殺人犯」として知られるアマルジート・サーダーのケースだと思われる。ビハール州出身のアマルジートは8歳までに3人の子供を殺し、少年院に入れられた。ただ、2016年に彼は出院しており、以後、彼が何をしているか知る者はいないという。
「Barot House」は、実話に基づくサスペンス映画である。構成がうまく、真犯人がなかなか見えてこないところにサスペンス要素がある。また、事件の内容も非常にショッキングなものだ。大スターのキャスティングがない地味な作品だが、無視できない怖さと面白さがある映画である。