2020年10月21日からZee5で配信開始された「Comedy Couple」は、スタンドアップ・コメディアンをするカップルを主人公にした、心温まるコメディー映画である。
監督はナチケート・サムラート。過去にマラーティー語映画「Gachchi」(2017年)を撮っており、ヒンディー語映画の監督は初となる。主演はサーキブ・サリームとシュエーター・バス・プラサード。サーキブは「Hawaa Hawaai」(2014年)などに出演していた男優であり、シュエーターは「The Tashkent Files」(2019年)などに出演していた女優だ。
他に、ジャスミート・スィン・バーティヤー、スバー・ラージプート、アーダル・マリク、プラナイ・マンチャンダー、ラージェーシュ・タイラング、プージャー・ベーディーなどが出演している。また、人気スタンドアップ・コメディアンのアヌバヴ・スィン・バッスィーが特別出演している。
舞台はグルガーオン。ディープ・シャルマー(サーキブ・サリーム)とゾーヤー・バトラー(シュエーター・バス・プラサード)は、「コメディー・カップル」という名のコンビを組むスタンドアップ・コメディアンのカップルであった。ディープは元々エンジニアだったが辞職し、ゾーヤーと共にコメディアンを目指していた。保守的な両親には内緒だった。ゾーヤーは母子家庭に育っており、彼女の母親は現在パリでアーティストをしていた。 ディープとゾーヤーは兄妹と偽って同棲していたが、カップルであることがばれ、住んでいたアパートを追い出される。どこのアパートも既婚のカップルしかテナントとして受け入れなかったため、二人は結婚証明書を偽造して新しいフラットを借りる。だが、結婚証明書が用意できなくなり、二人は思い切って結婚しようとする。 しかし、両親に仕事のことやゾーヤーのことを内緒にしていたディープは、ゾーヤーとの結婚を両親に伝えるのを躊躇する。その態度に腹を立てたゾーヤーは結婚を取り止め、ディープの元を去る。そのとき、ディープの両親が彼の家を突然訪問する。最初は嘘に嘘を並べて取り繕っていたディープだったが、とうとう嘘がばれてしまう。怒った父親は沈黙の行を始める。また、二人はテレビでテロリストとして取り上げられてしまう。 ディープとゾーヤーはソロのスタンドアップ・コメディアンとしてステージに立つようになる。だが、うまく行かなかった。ゾーヤーはパリにいる母親の元へ行こうとするが、寂しそうなディープの様子を見て、パリ行きを辞めて再びディープとコンビを組む。
ディープは子供の頃から嘘に嘘を重ねる癖があった。だが、彼の嘘は人々を笑顔にさせるものだった。成長したディープは、スタンドアップ・コメディアンとしての才能を開花させる。だが、エンジニアの職を放り出してコメディアンになったことは両親には内緒だった。
ディープとコンビを組んだのがゾーヤーであった。この二人が「コメディー・カップル」を結成した経緯についてはあまり詳しく語られていない。映画が始まったときには既に二人は「コメディー・カップル」であった。二人は下ネタを交えながら、プライベートな出来事をジョークに変換し披露した。これがYouTubeなどで拡散し、人気になる。
ディープを演じたサーキブ・サリームと、ゾーヤーを演じたシュエーター・バス・プラサードの息はピッタリで、二人のトークには思わず笑ってしまう。また、破局した後も彼らはソロ活動しながら、何となくお互いにメッセージを送り合っていた。予想通り、ラストでは二人は仲直りし、「コメディー・カップル」が再結成される。
序盤は小気味よく進み、ジョークも快調であった。ディープの両親や牛舎の主など、保守的な人々も出て来たが、スタンドアップ・コメディアンという比較的新しく脚光を浴びるようになった今どきの職業が取り上げられ、自然体で同棲するなど、基本的には現代的かつ都会的な価値観を軸として進むストーリーである。だが、ディープとのクールな関係を維持していたゾーヤーが突如として結婚にこだわりを見せ始めたことで話が陳腐化し始め、「またあれか」と思ってしまう。二人が離れ離れになった後の描写は前半に比べたら雑で、なぜ最後に二人が仲直りしたのかも、はっきりとは分からなかった。
未婚の男女が同棲することについてインド社会の視線は厳しいことは長年指摘され続けていることである。特にアパートに住もうと思った場合に大きな障害に直面する。どこのアパートも未婚の男女をテナントとして受け入れようとしないのである。当初、ディープとゾーヤーは兄妹ということにして一緒に住んでいたがすぐに嘘がばれ、フラットを追い出される。ようやく見つけた物件も既婚のカップルのみしか受け入れていなかったが、結婚証明書を偽造して大家を騙す。
この映画の大きな主題は「嘘」だった。嘘はいけないものだとされるが、果たして全ての場面で正直に言葉を発することがいいことなのか。嘘を付くことで人を笑顔にすることもできる。人間関係を円滑にすることもできる。よって、嘘の全てがいけないことはない。正に「嘘も方便」である。だが、相手や場面を見て嘘を使いこなさないと、大切な人を傷付けることになる。そんなありきたりなメッセージになっていた。
サーキブ・サリームとシュエーター・バス・プラサードの相性は良く、スタンドアップ・コメディアンとしてのステージ上での二人の掛け合いも絶妙だった。
「Comedy Couple」は、スタンドアップ・コメディアンをするカップルを主人公にした、笑い溢れるコメディー映画だった。後半に進むにつれて物語が陳腐化していたのが残念だが、そのテーマやストーリーテーリングはとても現代的なものだった。観て損はない映画である。