「Heropanti」(2014年)といえば、タイガー・シュロフとクリティ・サノンのデビュー作だった。その続編「Heropanti 2」が作られ、新型コロナウイルス感染拡大による延期を経て、2022年4月29日に公開された。韓国映画「ある会社員」(2012年)のリメイクとされている。前作とのストーリー上のつながりはない。
プロデューサーは前作と変わらずサージド・ナーディヤードワーラーだが、監督は、前作のサービル・カーンから交替しており、「Baaghi 2」(2018年)や「Baaghi 3」(2020年)でタイガーと共に仕事をしたアハマド・カーンになっている。コレオグラファーから監督に転向した人物だ。
主演はもちろんタイガーだが、ヒロインがターラー・スターリヤーに交替した。ただ、前作のヒロイン、クリティもエンディング後のボーナスダンス「Whistle Baja 2.0」でアイテムガール出演している。
キャストで特筆すべきは、悪役をナワーズッディーン・スィッディーキーが演じていることだ。抜群の演技力で知られるナワーズッディーンは過去に「Munna Michael」(2017年)で悪役を演じたことがある。
他に、ザーキル・フサインやアムリター・スィンなどが出演している。また、音楽監督をARレヘマーンが務めているのにも注目である。
舞台は英国ヨークシャー。RJ(タイガー・シュロフ)は母親ヘーマー(アムリター・スィン)と弟と共に平和に暮らしていた。ある日、自分のことを「バブルー」と呼ぶ女性イナーヤー(ターラー・スターリヤー)と出会う。RJはそれを否定する。 だが、実はRJこそがバブルーだった。バブルーは天才的なハッカーで、2年前、中央捜査局(CBI)の諜報員アサド・カーン(ザーキル・フサイン)に雇われ、手品師でサイバー犯罪者のライラー(ナワーズッディーン・スィッディーキー)を追っていたが、逆にライラーに買収され、彼がインド人の口座から金を不正で抜き出すことに手を貸した。また、バブルーは、ライラーの妹であるイナーヤーと恋仲になっていた。ところが、彼の行った行為により不幸に陥った家族と出会い、改心する。バブルーはライラーのシステムを破壊し、逃亡する。彼が助けた家族こそが、ヘーマーたちであった。ヨークシャーでバブルーはヘーマーの息子として密かに暮らしていたのだった。 この2年間、ライラーはバブルーを探していた。バブルーがアサド・カーンに電話をしたことで、彼の居所がばれ、ライラーはヨークシャーに追っ手を差し向ける。だが、バブルーは追っ手をかわし、自分の死を偽装する。また、バブルーはイナーヤーに全てを打ち明け、味方に引き入れる。 バブルーは世界中に散らばっているライラーの仲間たちを一人一人倒す。だが、ライラーはヘーマーを誘拐し、バブルーを誘き寄せる。バブルーは母親の前では暴力を振るえなかったが、彼女が気を失ったことで本領を発揮し、ライラーを倒す。 6ヶ月後、バブルーはイナーヤー、母親、弟と共にヴェトナムにいた。
名優ナワーズッディーン・スィッディーキーを悪役に起用したり、巨匠ARレヘマーンを音楽監督に据えたりと、見た目は豪華だが、内容は支離滅裂で、残念な出来になっていた。ストーリー全体ではなく、部分を楽しむと割り切って観るべき映画である。
主演のタイガー・シュロフは得意のアクションとダンスで見せ所を作っていたが、とにかく動いているときに輝いているだけで、演技は二の次だった。一方、ヒロインのターラー・スターリヤーが演じていたのは、多くの観客に嫌悪感を催させるようなタカビーな女役で、露出度も無意味に高く、イメージダウンにつながりそうだった。この2人にとって、「Heropanti 2」は決してキャリアアップにつながらない。
一人、独走していたのがライラーを演じたナワーズッディーン・スィッディーキーだ。彼は庶民役を演じさせると一番うまいのだが、今回はシャレた外見にゲイっぽい仕草を組み合わせ、今までにないようなファンキーな演技に挑戦していた。そして彼のようなうまい俳優なら、どんな役でもうまくこなすことが証明された。母親を演じたアムリター・スィンも貫禄の演技であった。
アクションシーンはとにかくタイガーの身体能力の高さに頼り切りだ。彼の華麗な身のこなしを追っているだけで陶酔を感じる。ダンスシーンにも力が入っていた。近年のヒンディー語映画ではレアとなった、完全に文脈を無視したダンスシーンの挿入法で、やはりタイガーの見事なダンスを鑑賞することになる。
海外ロケが多用されており、そういう意味でも豪華ではあった。中国、ロシア、南アフリカ共和国、ヴェトナムなど、いくつかのロケーションが出て来るが、それらが本当にその国で撮られたとは思えない。また、ヨークシャーがメインステージであることには変わらない。
「Heropanti 2」は、タイガー・シュロフのデビュー作「Heropanti」の続編扱いになっているが、実際にはストーリー上のつながりはなく、独立した作品と考えるべきである。タイガーのファンならば楽しんで観られるだろうし、アクションやダンスには一定の評価ができるが、全体として映画の完成度は低い。無理して観る必要はない映画である。