2015年9月25日公開の「Timeout」は、全く無名の監督・俳優によるマイナーな映画だが、LGBTQを扱っている点で注目される上に、素人っぽい作りが逆にいい味を出しているユニークな作品だ。
監督はリキル・バハードゥル。キャストは、チラーグ・マロートラー、プラナイ・パチャウリー、ヴェーダブラタ・ラーオ、サーニヤー・アローラー、リヤー・コーターリー、カーミヤー・シャルマーなど。
ガウラヴ(チラーグ・マロートラー)と兄のミヒル(プラナイ・パチャウリー)は同じシナジー・グローバル・スクールに通う学生だった。ミヒルは学校のバスケットチームの主将で、ガウラヴは兄のことを尊敬していた。ガウラヴは同じクラスの友人たちとバンドを組み、オリジナル曲を作っていた。ガウラヴは、アナンニャー(カーミヤー・シャルマー)に告白するが振られてしまう。 ある日、ガウラヴは、ミヒルがチームメイトのヴァルン(ヴェーダブラタ・ラーオ)と裸でベッドにいるところを見てしまい、ミヒルがゲイであることを知る。ガウラヴはその事実を受け入れられず、兄ともまともに話せなくなってしまう。一方、ミヒルはカミングアウトすることを決意し、まずは友人たちにヴァルンとの仲を明かす。そして次に両親にもゲイであることを明かすが、両親は激怒し、喧嘩を始める。そしてヴァルンの両親を家に呼び、息子に悪影響を与えたと糾弾する。ヴァルンは親から殴られる。 文化祭の日、ガウラヴはバンド仲間と共にコンサートをするが、ミヒルがバスケットボールのチームから追われそうになっていることを知り、途中で抜け出してバスケットボールのコートへ行く。そして兄と抱き合う。
序盤は、日本のTVドラマや映画によくありそうな学園モノのノリだった。舞台はデリーNCR地域によくある私立の名門校らしき共学の学校だ。見たところ、幼稚園から高校まである一貫校で、通うのは裕福な家庭の子供ばかりである。もちろん、ガウラヴとミヒルの兄弟の家庭も裕福であった。授業や文化祭の様子などが割と長く映し出されるので、インドの学園生活の様子を垣間見ることができるのも興味深い。そして、日本と同様に、「告白」を中心にした恋愛文化が見受けられる点も注目される。
ただそれだけの映画だったら、あまり高い評価は与えられなかった。はっきり言って素人に毛が生えた程度の若い俳優たちばかりが登場するため、演技面では特筆すべきところに乏しい。本当の学校でロケが行われている上に、おそらく本当の学生たちをエキストラとして起用していると思われ、その点ではやたらリアルに感じた。
物語が動くのは中盤、ガウラヴが兄の同性愛を知った場面である。LGBTQ映画がもっとも重視するのはカミングアウトだが、この「Timeout」もその例に漏れず、カミングアウトがストーリーの中心的要素になっていた。ミヒルは自分がゲイであることを弟に知られたことで、公表することを決意するが、恋人のヴァルンはそれに反対する。ミヒルがその反対を押し切る形で友人や両親などにカミングアウトをしていく。友人たちからは理解が得られたが、両親からは拒絶された。その影響はヴァルンにも及び、彼は親から暴行を受ける始末であった。同性愛者がカミングアウトすることで起こり得ることがかなり網羅されていたといえる。
一方、「Timeout」は、同性愛者の兄を持った弟の物語でもあった。ガウラヴも当初は兄がゲイであることを受け入れられず、ふさぎ込んでしまう。だが、自分が自分であろうとすることを何人も止めることはできないと思い直し、兄をありのまま受け入れることを決める。口では、同性愛について寛容な意見を簡単に言えるが、いざ家族など近い関係の人が同性愛者と分かったとき、同じようにそれを受け入れられる人は少ない。ガウラヴも悩むが、悩んだ末に彼は兄を抱きしめるのだった。
ただ、ガウラヴとミヒルの抱擁で映画が終わってしまっていたため、ミヒルの両親が最終的に彼を受け入れたかどうかは語られず仕舞いだった。そこまで描くことができれば、LGBTQ映画としては完璧だったのではなかろうか。
同性愛というメインテーマ以外に、バスケットボールやバンドに打ち込む若者の姿が溌剌と描かれており、インドの若者も日本の若者とそう変わらない青春時代を過ごしている様子が見て取れる。男女の仲がとてもよいのが印象的で、ガウラヴが組んだバンドのメンバーも半分は女子であった。
「Timeout」は、インドの若者がどんな青春を送っているか、かなりリアルに描写した作品だ。本物の学生をエキストラとして起用し、かなり実年齢に近い若い俳優たちをメインキャストとして配置したことで、それが実現したと思われる。メインテーマである同性愛も直球で描かれていて好感が持てた。とても地味な作品だが、高く評価したい。