Jalsa

4.0
Jalsa
「Jalsa」

 2022年3月18日からAmazon Prime Videoで配信開始された「Jalsa(集会)」は、ヒンディー語映画界でトップクラスの演技力を持つヴィディヤー・バーランとシェーファーリー・シャーが激突するクライムサスペンス映画である。

 監督は「Tumhari Sulu」(2017年)のスレーシュ・トリヴェーニー。ヴィディヤー・バーランとシェーファーリー・シャーの他には、ローヒニー・ハッタンガディー、スーリヤ・カースィーバトラー、マーナヴ・カウル、カシシュ・リズワーン、ヴィダートリー・バンディー、モハンマド・イクバル・カーンなどが出演している。

 舞台はムンバイー。マーヤー・メーナン(ヴィディヤー・バーラン)はインターネット・ニュースチャンネルWRDで真実を次々に暴く有名ジャーナリストだった。知的障害を抱える息子アーユーシュ(スーリヤ・カースィーバトラー)と実の母親ルクミニー(ローヒニー・ハッタンガディー)と共に暮らしていた。アーユーシュの父親アーナンド(マーナヴ・カウル)とは別れていた。また、家にはルクサーナー(シェーファーリー・シャー)というメイドが働いており、アーユーシュはとても彼女に懐いていた。

 ある日、深夜まで仕事をしていたマーヤーは自分で自動車を運転して帰宅する。その途中で突然道路に飛び出してきた女性を跳ねてしまう。怖くなったマーヤーはそのままひき逃げしてしまう。その女性はルクサーナーの娘アーリヤー(カシシュ・リズワーン)だった。深夜だったため、誰も目撃者がいなかった。アーリヤーは頭を強く打って瀕死の重傷を負い、政府系病院に搬送される。マーヤーはアーリヤーを高級な私立病院に移させ、最高の医療を受けさせる。だが、自分がひいたのがアーリヤーだったことに気付くのに時間は掛からなかった。

 マーヤーは同僚のアマル(モハンマド・イクバル・カーン)に相談する。アマルは、誰も目撃者がいないなら隠し通すべきだと助言する。一方、WRDでインターンをするローヒニー(ヴィダートリー・バンディー)はこの事件に興味を持ち、独自に調査を始める。また、警察官のモーレーとプラディープは事件のもみ消しをしようとする。

 精神的に不安定になったマーヤーは、ルクサーナーをクビにする。ローヒニーは防犯カメラの映像からひき逃げ犯がマーヤーであることを突き止めるが、アマルから助言され、金と引き換えに報道しないことを決める。マーヤーはルクサーナーに真実がばれることを恐れていたが、ローヒニーの買収に成功したことで安心する。だが、次第に罪悪感に苛まれるようになり、マーヤーはローヒニーを呼んで、自分の独白を録画させる。

 その頃、ルクサーナーは、アーリヤーの恋人アーラムから、ひき逃げ犯がマーヤーであることを聞いてしまう。ルクサーナーは復讐をするためにマーヤーの家を訪れ、アーユーシュを連れ出す。マーヤーは、ルクサーナーにばれたと知って家に直行するが、ルクサーナーはアーユーシュを海に連れ出していた。海へ行こうとするが、道は地元政治家の集会で渋滞しており、前に進めなかった。

 夕方、アーユーシュを探してルクサーナーは海岸を歩いていた。と、そこにルクサーナーの姿を見つける。アーユーシュがいなかったが、よく見てみると舟の中でルクサーナーの息子と一緒に遊んでいた。

 不正を暴き、真実を追究するジャーナリスト、マーヤーがひき逃げをしてしまう。しかも、ひいた相手は、自分の家でメイドとして働くルクサーナーの娘だった。幸い目撃者がおらず、このまま隠し通すことができそうだったが、今まで真実の追究をモットーとして仕事をしてきたマーヤーは精神が不安定になり、罪悪感に苛まれることになる。「Jalsa」は、マーヤーのその不安定な精神状態を堅実に描き出す作品だった。

 マーヤーの周辺には多数の登場人物がおり、この事件を巡って、それぞれの利害に従って行動する。特に注目したいのは2人の女性、ルクサーナーとローヒニーだ。

 ルクサーナーは、ひき逃げ事故で重傷を負ったアーリヤーの母親であり、しかも後にそのひき逃げ犯が自分の雇用主だと知る。ルクサーナーが採った復讐の手段は、マーヤーの最愛の息子アーユーシュを海に突き落とすことだった。だが、アーユーシュはルクサーナーに懐いており、彼女はそれを遂行できなかった。

 ローヒニーは、マーヤーに憧れる新米ジャーナリストで、彼女のオフィスでインターンとして働き始める。だが、彼女が興味を持って調べ始めたひき逃げ事件の犯人がマーヤーだと知り、ジレンマに陥る。自分のロールモデルを目指すならば、真実を曝露しなければならない。だが、その曝露によって世間から批判の的となるのは、他でもない、自分の尊敬するマーヤー自身であった。また、ローヒニーはすぐに金が入り用だった。結局彼女は、このネタをマーヤーに売ることで実利を取ることを決める。

 しかしながら、インド映画では、一度付いた嘘を最後まで通し続けるという筋書きにはならないことがほとんどだ。マーヤーも、最終的には罪を公表することを決める。だが、そうやって真実の道を歩み出そうとしたときに、別の方面から嘘がばれてしまうというのも、インド映画の常套手段であり、この「Jalsa」も例外ではなかった。ルクサーナーもひき逃げ犯がマーヤーであることを知ってしまうのである。

 題名の「Jalsa」が何を含意しているのか、終盤になってようやく分かる。ひき逃げ事件をもみ消そうと奔走していた2人の警察官は、別にマーヤーから頼まれて動いていたわけではなかった。自分たちの不祥事により防犯カメラが看板によって塞がれてしまい、ひき逃げ事件の犯人を特定することができなくなってしまっていた。彼らは自分たちの不祥事が表沙汰にならないようにもみ消しを図っていたのである。その看板は、「ダディー」と呼ばれる地元政治家の誕生日パレードを宣伝するものだった。そのパレードを「ジャルサー」と呼んでいた。このパレードは伏線になっており、マーヤーがアーユーシュを助けるため海に向かっているときの障害となる。

 様々な登場人物や色々な要素が複雑に絡み合いながら伏線を構成しており、それらが最後、ひとつにまとまって結末を迎える手法は、「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)のラージクマール・ヒラーニー監督を思わせるものだ。ヴィディヤー・バーランの堂々たる演技も素晴らしかったし、シェーファーリー・シャーも負けてはいなかった。強力な女性キャラクターが織りなす物語になっており、女性映画のひとつに数えることもできる。

 ただ、シェーファーリー・シャーもヴィディヤー・バーランと同じくらい貫禄のある女優である。今回、彼女はメイド役を演じていたが、その容姿からはとてもメイドには見えなかった。シェーファーリーも十分にマーヤー役を演じられたと思う。シェーファーリーの演技は賞賛に値するが、彼女以外のキャスティング、例えばメイドを演じることの多いティロッタマー・ショームやスィーマー・ビシュワースなどもあり得たのではないかと感じた。

 防犯カメラやネットワークカメラなど、とにかくカメラが重要な小道具になっていた映画だった。防犯カメラの映像がひき逃げ事件の重要な証拠になっていたのはもちろんのこと、アーユーシュを監視するためのネットワークカメラや、SNSなどにアップロードするための動画を撮影するカメラなど、映画の随所にカメラが使われていた。それを見ると、インドでも家庭内から街角まで、あちこちにカメラが普及している様子が感じられる。

 「Jalsa」は、深夜のひき逃げ事件を中心に、2人の演技派女優ヴィディヤー・バーランとシェーファーリー・シャーが激突するシリアスなクライムサスペンス映画だ。全般的にダークかつ不安定な心理描写に力点を置いた展開だが、結末は意外に柔らかくまとめてある。観て損はない力作である。