2019年5月10日からZee5で配信開始された「Badnaam Gali(汚名通り)」は、代理母を題材にした映画である。
監督は新人のアシュウィン・シェッティー。主演は「Citylights」(2014年)のパトラレーカー・ポールと「Pyaar Ka Punchnama」(2011年)のディヴィエーンドゥ・シャルマー。他に、ドリー・アフルワーリヤー、パリトーシュ・サーンドなどが出演している。
パンジャーブ州の田舎から「静けさ」を求め、デリーに住む叔母(ドリー・アフルワーリヤー)の元にやって来たランディープ・スィン・ソーディー(ディヴィエーンドゥ・シャルマー)だったが、彼女の住むエリアは、「バドナーム・ガリー(汚名通り)」と呼ばれており、喧嘩が絶えなかった。近所の噂の中心になっていたのが、一軒家に一人で住むベンガル人女性ナヤン(パトラレーカー・ポール)であった。ナヤンは未婚にもかかわらず妊娠しており、彼女の家にはひっきりなしに男性が訪ねてきていた。 叔母から警告されたランディープは当初ナヤンを避けていたが、彼女の紹介で整備工の職にありつけ、彼女と話すようになる。実はナヤンは代理母をしていて、お腹の中の子供も、子供が作れない夫婦の子供だった。ナヤンと親しくしていることを叔母から責められると、ランディープはナヤンの家に住み始める。叔母から話を聞いた父親(パリトーシュ・サーンド)は心配になってパンジャーブ州からデリーに出て来る。 ある日、ナヤンが産婦人科に行くと、医者から、胎児の心臓に穴が開いていると知らされる。それを知った父親のシェーカルは、子供を受け取ることを拒否する。また、ナヤンに対する誹謗中傷が収まらないことに業を煮やしたランディープは、ナヤンが代理母であることを近所の人々に明かし、ありもしない噂を広める彼らを糾弾する。ナヤンは、お腹の子供を生んで自分が育てることを決意する。 ナヤンは破水し、病院に運ばれる。そして女児を生む。ランディープと父親は彼女を助け、女児の誕生を祝う。近所の人々も一転してナヤンに優しくなり、退院した彼女と子供を温かく迎える。
OTT配信作品で、スター俳優の起用もないが、隠れた佳作だった。代理母という際どいテーマを扱った映画で、実の夫婦が子供の受け取りを拒否するというトラブルが物語の転換点になっていたが、終始明るく心温まる作品に仕上げており、インド映画らしい後味の良さのある映画だった。
なぜナヤンが代理母を始めたのか、詳しい説明はなかった。代理母がどういうものかの解説もなかったし、生物学的な両親が子供の受け取りを拒否した場合、その子供がどうなるのかも結局語られずじまいだった。よって、代理母についての理解を深めるような効果のある映画ではなかった。ただ、ナヤンは一人で暮らしており、家族がいない身のようなので、社会貢献というよりは、やはりお金が目的だったと思われる。
また、ナヤンは有名ファッションデザイナーの服をコピーして安く売ることを仕事にしていた。サラリと語られていたが、普通に考えたらこれは違法行為だ。それがさも生活の知恵であるかのように描写されるのはインドならではではなかろうか。
ナヤンを演じたパトラレーカー・ポールは、ハスキーボイスが気になるのだが、堂々とした演技をしており、映画を支えていた。ランディープを演じたディヴィエーンドゥ・シャルマーも好演していた。特に中盤、近所の人々を糾弾して回る長回しのシーンがあるが、大きな見所だった。だが、残念ながらスター性のある俳優ではない。ナヤンはベンガル人という設定だったが、パトラレーカー自身が本当にベンガル人だ。それに対しディヴィエーンドゥの方も、演じたランディープと同様にパンジャーブ人の家系に生まれている。
「Badnaam Gali」は、代理母をしている女性を主人公にした心温まる物語である。スター俳優の出演はなく、低予算で地味な映画だが、コンパクトにまとまっており、期待以上に楽しめる。観て損はない映画だ。